巻頭言(2025年春号)
巻頭言(2025年春号)
Foreword (Spring 2025)
岡田 保良 Yasuyoshi OKADA

Information誌がウェブ形式に舵を切って1年のサイクルが経過しました。まずは編集に当たられた若い方々の創意とご尽力に改めてお礼申し上げます。この1年、国際社会の目まぐるしい動きに呼応するかのように、日本イコモスの内外でもいろいろな動きがありました。
国内事業から
奈良文書30周年と「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録10周年を記念し、群馬県との共同開催で1月に実施された国際シンポジウムでは、キーワード「ヘリテージ・エコシステム」のもとに海外から多数の参加者を得、2日間のディスカッションを経て “Gunma Declaration on the Heritage Ecosystem” という、来るべき文化遺産の世界を見越した成果物をもたらしました。ウェブサイトをぜひご参照ください。またベニス憲章の60周年を機に、私たちの第1小委員会が、研究会の実施を含めて憲章の見直しと再評価の議論を煮詰め、その報告書が刊行されました。それぞれのグループを率いていただいた河野、藤井両先生はじめ、労を惜しまずこれらの活動をささえてこられた方々に対し、心より謝意と敬意を表します。
また、昨年は初代門司駅遺構の保存に関し、本部から日本イコモスの主張に基づき、ヘリテージ・アラートが発出されました。事態は残念な方向に向かっているようで、まだまだ目が離せない状況です。かつて同様のアラートが発せられた、高輪築堤遺跡の保存と神宮外苑再開発見直しの問題も、まだ収束したわけではなく、見守り続けねばなりません。会員のみなさまにも関連する情報の収集と共有をお願いいたします。
国際動向から
私たちも一員であるアジア太平洋地域の仲間たちが元気です。今年の年次総会AGAはネパールICOMOSが10月にルンビニ/カトマンズ連携での開催を招致しており、来年秋に予定されている3年ごとの総会GAはマレーシアでの開催が決まっています。定例化されたオンラインでの地域ミーティングは、昨年1、4、8、10月に開催され、地域内各国の活動状況、ISCの動向など臨機に情報の交換が行われています。日本からは登録者3名(秋枝さん、宮崎さんと筆者)と本部ボードの大窪理事が支障のない限り出席しています。会議内容の報告を心掛けてはいますが、十分とはいえない点、宿題としてご容赦ください。この4月には、オンラインではなく、韓国ICOMOSが各国代表を招待しての地域会議の開催を呼びかけており、いま日本としての貢献を熟慮しているところです。
この地域会議から遺産影響評価HIAの現況にテーマを絞ったアジア太平洋ウェビナーシリーズの企画が生まれ、11月の初回を皮切りにすでに4回公開で開催されています。2回目の東アジア特集では、福岡県の岡寺未幾さんにご登壇をお願いし、日本のHIA事情を紹介していただきました。各回、YouTubeで公開されていますので、検索を試みていただきたいと思います。
少し前になりますが、昨年10月にブラジルで開催された年次総会の記録は、本年1月の本部発ICOMOS Informationで報じられていますが、その中で筆者が注目する二つの話題を紹介します。
一つは、無形遺産に関して採択されたガイドライン文書ICOMOS International Charter and Guidance on Sites with Intangible Cultural Heritage(仮称「無形文化遺産サイトに関するイコモス国際憲章およびガイダンス」)です。無形文化遺産が有形遺産の側面と共存することが多いことを想起し、遺産の不可分性、さらには有形と無形の側面が同等に尊重されるべきであること、文化遺産保護の実践には統合されたアプローチが必要であることを強調します。20年前の「大和宣言」に思いを致す文書という印象です。
もう一点は、議事録に議論の経緯が詳しく残されているのですが、英国ICOMOSから提案のあったグローバルサウス情報網の提案です。欧州諸国主導になりがちなICOMOSの動向に対して途上国グループの意見調整を図ろうという趣旨によるものと解されます。ところが、本部にはすでにRight-based ApproachのWGがあるなど、新たなグループの必要性に疑問を抱く声があい次ぎ、提案は採択されず、議論は持ち送られることになりました。筆者には少々意外で、欧州事情への理解の不足を思わずにはいられない事案でした。
世界では、戦火が収まらないユーラシアの西方各地で、ようやく和平に向けた動きが見え始めました。とはいえ、いずれの武力衝突も、内乱であれ国際紛争であれ、その終息には力のアンバランスが大きく作用するという現実を私たちは目の当たりにしています。国連以外にすべを持たない世界秩序がいま大きく揺らいでいることは間違いありません。UNESCOや世界遺産条約をめぐる国際連携が破綻しないことを、つよく祈ります。
(日本イコモス国内委員会委員長)