EPの10年 ― 若手専門家のネットワークはどのように育ってきたか
EPの10年 ― 若手専門家のネットワークはどのように育ってきたか
Ten Years of EP: How Has a Network of Emerging Professionals Grown?
山田 大樹 Hiroki YAMADA
EPは、2016年当時、イコモス副会長であった河野俊行先生のご発案により、「文化遺産保護に関わる若手専門家の育成」および「イコモスの活動に関与する若手専門家の増加」を目的として、作業部会(Working Group)として発足しました。本記事を書いている現在は2026年ですので、ちょうど10年が経過したタイミングです。そこで、EPの立ち上げから10年の歴史を振り返ってみたいと思います。
EPはどのような経緯で作られたのか?
EPは、当初、Young Professionals(YP)という名称でした。しかし、何歳までYoungと呼べるかの定義は難しく、日本では50代でも若手と言えます。それに加えて、文化遺産保護分野以外で活躍していた専門家が、新たにICOMOSに参画することを考えると、これからの活躍を期待する人材を単に年齢で区切るのは相応しくありません。そこで、Young ではなく、これから活躍していくという意味でEmerging Professionals(EP)と呼称を変えました。EPの定義は明確に定められているわけではありませんが、当時は概ね、文化遺産保護を専門として10年未満程度の専門家を想定する議論がなされていました。
EPWG (EP作業部会)の発足の背景として、日本とは異なる各国委員会の事情がありました。もともとICOMOSは、1964年に開催された「第2回歴史的記念物に関する建築家・技術者国際会議」において採択された「ヴェニス憲章」の理念を国際的に実現するため、1965年に設立された機関です。その経緯から、ICOMOS会員は、建築史や考古学の権威や、歴史的建造物の修復家に限定される傾向がありました。しかし、現在では遺産概念が拡大し、世界遺産の対象は、モニュメントや考古遺跡だけでなく、歴史的都市や文化的景観もその範疇に含むようになっています。また、景観保全、観光分野、無形遺産など、求められる専門分野も多様化してきました。そのため、多様に生じる専門的課題に対応するために、ICOMOSは組織としても裾野を広げていく必要に迫られるようになりました。
しかし、いくつかの国の委員会では、ICOMOSに参加している専門家が限定的な分野に偏り、また新たな会員が増えない状況がありました。遺産保護の課題が多岐に広がる一方で、ICOMOSで国際的に議論された情報が一部の専門家にとどまってしまい、各国内の専門家まで波及していかない事情もあったようです。そこで、自動的に人材の新陳代謝を促すような仕組みの導入が求められました。それを実行すべく、各国の国内委員会から若手専門家を集め、まずは国際的な若手専門家のネットワークが作業部会として立ち上がりました。これが2016年のことでした。
このネットワークの発足にあたって、河野先生から私も日本からの参加者としてご指名いただき、毎月1回海外各国からのEPと共に、組織としてのEPの在り方を議論していきました。その議論の結果を要望書の形にまとめて2017年にニューデリーで開催されたICOMOS総会に提出し、参加者からの多くの賛同を得て、EPがICOMOS内での正式な作業部会(EPWG)として立ち上がりました。(その後の国際EPWGの活動については、本特集内の「対話から実践へ:ICOMOSにおけるEPたちの協働の実践」をご参照ください。)
日本でのEPの成り立ち
日本のEPは、2018年4月にEPWGの国内作業部会として立ち上がり、2019年に正式に常置委員会となりました。その後、若手専門家(EP)常置委員会(以下、EP常置委員会)は、これまでICOMOSの活動に参加できていなかった会員や学生会員も含め、年齢を区切らず、文化遺産保護の専門家として成長しようとする全てのICOMOS会員が参加できる開かれたプラットフォームとして活動しています。(EP常置委員会の運営については、本特集内の「2026年現在のEPの運営システムについて」をご参照ください。)
EP常置委員会のこれまでの活動とこれから
EP常置委員会は、これまでウェビナーを中心として毎年数多くのイベントを開催してきました。コロナ禍が明けてからは、対面式のイベントや見学会なども数多く実施しています。本年度、EPメンバー向けに、富山県観光推進局 観光資源活用室 世界遺産・ふるさと教育推進課及び国土交通省立山砂防事務所のご厚意により、世界遺産登録を目指す「立山砂防」の見学を予定しています。
過去を振り返る意味で、記録に残っているEPの活動記録を表1に示します。これらの一部については、過去イベントのアーカイブとしてEP向けに公開しており、新たにEPに加わったメンバーも視聴できるシステムを整えています。

最後に皆様へ
イコモス会員になってはみたものの、何をしたら良いかわからない、どこの委員会にも所属していないという方は、まずはEPを活動の足掛かりにしていただければと思います。
また、EPとのコラボレーションに関心をお持ちの自治体、大学、研究機関の皆様からのご連絡も、ぜひお待ちしております。
(帝京大学文化財研究所)