「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産登録
「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産登録
Inscription of the Ancient Capitals of Asuka and Fujiwara on the World Heritage List
山田 隆文 Takafumi YAMADA
2026年7月26日の10時45分、大韓民国釜山市で開催されていた第48回世界遺産委員会において、「飛鳥・藤原の宮都(Ancient Capitals of Asuka and Fujiwara)」の世界遺産一覧表への記載が決議された。
2006年11月に「飛鳥・藤原-古代日本の宮都と遺跡群」の名称で提案書を提出し、翌2007年1月30日に「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」として暫定一覧表に加えられてから、20年を経ての記載の実現であった。
推薦書提出などの流れは次のとおりである。2024年9月9日に文化審議会世界文化遺産部会において、国内推薦候補に選定。2025年1月28日に日本政府の閣議了解を得て、推薦書を世界遺産委員会に提出し、その後、イコモスによる審査が開始された。
イコモスによるデスクレビューの他、2025年9月8日から12日までの5日間にわたる現地調査の実施、その後の追加情報の提出などの諸対応を経て、2026年6月6日の未明にイコモス勧告が公表された。そして、7月19日から29日まで開催された第48回世界遺産委員会を迎えることとなった。
さて、「飛鳥・藤原」は、暫定一覧表への記載当初は対象地域内の国指定特別史跡・史跡・名勝を全て網羅した28件を構成資産候補としていたが、その後さまざまな検討のすえの増減があり、最終的には19件の構成資産候補で推薦し、今回その全ての記載が認められた。評価基準も推薦通り、(ⅱ)と(ⅲ)がともに認められた。評価基準を含む登録の正当性にかかる比較研究、完全性、真実性の4項目、保全管理にかかる4項目、全ての項目で私たちの推薦内容が認められた。
以下、世界遺産委員会48COM 8B.19の決議の暫定的な仮訳に基づくものであるが、「飛鳥・藤原の宮都」の詳細について紹介する。
「飛鳥・藤原の宮都」は、中国および朝鮮半島の諸王国との交流を通じて成立した、日本列島における「飛鳥の宮都(588~694年)」と「藤原の宮都(694~710年)」の2つの連続する初期の宮都に関連する19件の構成資産から成るシリアルプロパティである。
奈良盆地の南東部、橿原市・桜井市・明日香村に所在するこれらの遺跡は、中国の律令制度を模範とした東アジアにおける中央集権体制の誕生と成立の形成過程を証明している。飛鳥および藤原の宮都は、8世紀の平城京(奈良)や9世紀の平安京(京都)など、その後の日本の宮都の造営と発展に影響を与えた。
2つの宮都の配置、意匠、技術および都市計画は、在来の伝統と、東アジア諸国から受容した文化および技術との融合の結果であった。19件の構成資産は、これら宮都の有形的かつ空間的特質を示す3つの類型、宮殿・官衙跡、仏教寺院跡、墳墓を代表するものとして選定されている。
飛鳥の宮都(588~694年)の遺跡は、中央集権体制の実施の初期段階を反映し、政治権力の宮殿への集中と統治機能の段階的整備を示している。飛鳥寺(構成資産005)は、日本列島で最初の仏教寺院であり、仏教伝来を示している。有力氏族の影響下にある地域では、私寺および新たな型式の墳墓が出現し始めた。続く藤原の宮都(694~710年)の遺跡は、この中央権力発展段階の完成段階を示している。官衙を含む宮殿を宮都の中心に配置し、その周囲に国家寺院や墳墓が計画的に配置された。
完全性については、「飛鳥・藤原の宮都」を構成する19件の構成資産は、日本列島におけるこれら初期中央集権体制の形成および特質を表現するために必要なアトリビュートを全て備えている。遺構の大部分は地下に所在しているが、それらは十分な調査がおこなわれ、安定した状態で維持されている。資産の境界は適切であり、単一の包括的緩衝地帯は追加的な保護層を提供している。主要な圧力要因は積極的に管理されている。
真実性については、顕著な普遍的価値のアトリビュートは、宮都の廃絶後に地下に埋蔵された考古学的遺跡であり、その後農地として利用されつつも良好な保存状態を保っている。2つの宮都の空間構成や配置に関する証拠は、発掘調査および文献史料によって確認されている。遺跡は発掘調査後に埋戻され、非破壊的な方法および材料を用いた地上表示により可視化とインタープリテーションがおこなわれている。
保存管理については、まず構成資産は、文化財保護法に基づく史跡・特別史跡・名勝、また国有財産法に基づく陵墓として保護されており、これらの区域内における開発や改変については厳格に規制されている。緩衝地帯の保護は、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」および「明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」(「明日香法」)に基づき、地形の改変、新規構造物の高さ、色彩、意匠について規制がおこなわれている。さらに周辺環境を保全するため、都市計画法に基づく風致地区指定も適用されている。緩衝地帯の一部は国営公園として直接管理され、地下遺構は文化財保護法に基づく「周知の埋蔵文化財包蔵地」として保護されている。
資産および緩衝地帯については、包括的保存管理計画が策定されており、奈良県・橿原市・桜井市・明日香村によって組織される世界遺産「飛鳥・藤原」協議会が、その管理、調整をおこなっている。さらに各構成資産には個別の管理計画が存在し、構成資産および緩衝地帯は体系的なモニタリングおよび日常的維持管理の対象となっている。
「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産一覧表への記載が決議された際に会場では小林茂樹文部科学副大臣と山下真奈良県知事からサンクススピーチをおこない、この遺産を保護し、その価値を世界と分かち合い、そして次世代へと継承していくことを約束する、と表明した。推薦内容が全て認められたとはいえ、藤原宮跡からの眺望を守ることを確実にするための遺産影響評価(HIA)の実施、キトラ古墳及び高松塚古墳より取り外された壁画の保存及び原位置復帰に関する科学的研究の継続など、他の資産と同様に追加勧告が示されており、まずはそれらを確実に実行し続けなくてはならない。さらに今回の件で奈良県は、「法隆寺地域の仏教建造物」、「古都奈良の文化財」、「紀伊山地の霊場と参詣道」を含めて4件の世界遺産を所管することとなる。これらの文化遺産を、すがたかたちを損なうことなく、次世代へ継承するという重大な責務を負う自治体として、今後も関係機関などとの連携のもと保全活用を進めていかなくてはならない。


(奈良県地域創造部世界遺産室/奈良県立橿原考古学研究所)