第48回世界遺産委員会サイドイベント 「海が繋ぐ信仰と交流の軌跡: 日本の世界遺産から始まる国際共同研究の展開」


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第48回世界遺産委員会サイドイベント 「海が繋ぐ信仰と交流の軌跡: 日本の世界遺産から始まる国際共同研究の展開」

The Side Event at the 48th Session of the World Heritage Committee, Traces of Faith and Exchange Linked by the Sea: The Development of International Collaborative Research Starting from Japan’s World Heritage Sites

岡寺 未幾 Miki OKADERA

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パネルディスカッションの様子(左から溝口孝司氏、ガミニ・ウィジェスリヤ氏、サイモン・ケイナー氏、鈴木地平氏)

1. 概要

ワークショップ「Traces of Faith and Exchange Linked by the Sea: The Development of International Collaborative Research Starting from Japan’s World Heritage Sites (海が繋ぐ信仰と交流の軌跡:日本の世界遺産から始まる国際共同研究の展開)」は、2026年7月24日(金)に第48回世界遺産委員会のランチタイムのサイドイベントとして行われた。

今回の世界遺産委員会は本遺産群と非常に近い韓国・釜山市BEXCOでの開催であり、歴史的にも大変深い繋がりを持つことが契機となり、実現したものである。主催は「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群保存活用協議会および英国セインズベリー日本藝術研究所、日本イコモス国内委員会に共催いただいた。

2. 趣旨

古代において、海は人々を分断する障壁ではなく、人々をつなぐ「大動脈」であった。第48回世界遺産委員会の開催地である韓国釜山市は、古代においては加耶(カヤ)諸国の一部であり、当時、日本列島の人々が海を越え最初に交流を行った場所であり、「神宿る島」沖ノ島で行われる祭祀の変化においても、極めて重要な役割を果たした。

特別研究事業は、2017年に「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群が世界遺産に登録された際、海上交流と祭祀と信仰に関する研究を東アジア地域に拡大するよう世界遺産委員会から追加的勧告を受けたことから、開始された。調査研究は2018年から現在まで継続されており、現在は第2期(2024年度から2028年度まで)の3ヶ年目である(注1)。

研究ネットワークは、韓国をはじめ東アジアを越えてアジア太平洋地域やヨーロッパにまで広がり、英国のセインズベリー日本藝術研究所(SISJAC)をはじめとする機関と協力している。そして、海を越えた交流がどのように祭祀・信仰の変化に影響を与えたかをはじめ人類史的視点から学際的な問いを追求している。特に注目すべき成果としては、世界考古学会議におけるセッションの開催(注2)や、日本国内での一般向け書籍の出版(注3)などが挙げられる。

本ワークショップでは、日本におけるひとつの世界遺産を起点とした国際共同研究の最新知見を共有する。これにより、世界遺産登録が単なる目標ではなく、国境を越えた協力と科学的探究を深める新たな「対話」の始まりであることを示す、具体的なモデルケースを提示することを目指すものである。

3. ワークショップの概要

司会は特別研究事業の議長である溝口孝司氏(日本イコモス国内委員会副委員長、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群専門家会議委員、世界考古学会議元会長)にお願いした。ワークショップは主催者挨拶から始まり、佐藤嘉洋課長(「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群保存活用協議会事務局長・福岡県市町村地域振興部文化局九博・世界遺産文化施設課長)が開催の趣旨を述べた。次に、来賓挨拶としてチョ・ユジン氏(ICCROM 世界遺産リーダーシップ・プログラム) が、ICCROMは調査研究を継続することが遺産の保全に貢献すると考えているが、その非常に優良な事例として沖ノ島はあげられる。調査研究は、インタープリテーション、資産の保全、管理、訪問者管理、災害リスク管理など、科学的な根拠を示す、非常に重要な柱である。さらに、資産の管理にサイト・マネージャーが果たす役割が非常に重要であるが、沖ノ島は調査研究という手法を通して、研究者同士、日本と韓国、資産と世界を繋ぐ架け橋になっている、との言葉をいただいた。報告1「特別研究事業の取組とその意義」は溝口氏より本遺産群の説明と特別研究事業の概要とあわせて、「Living OUV」との概念を新たに提唱され「調査研究→インタープリテーション→パブリック・エンゲージメント(Public engagement)→マネジメント」のサイクルは、特に聖地で行くことの出来ない沖ノ島を含む本遺産群にとって、重要であることを説明いただいた。つづく報告2「海がつなぐ信仰と交流―スリランカの事例―」 では、ガミニ・ウィジェスリヤ氏(HERITAGE Asia-Pacific (heritAP)・WHITRAP上海特別顧問/ユネスコ無形文化遺産能力構築プログラム ファシリテーター)から、これまで多くの世界遺産の保存管理計画に関わった経験から調査研究は鍵となるもの。世界遺産のOUVの維持と保全にとって調査研究が必要不可欠であり、沖ノ島モデルは調査研究の拡大、国境を越えた連携と科学的な交流のモデルとなるとの言葉をいただいた。つづく、報告3「海がつなぐ信仰と交流―英国における事例とセインズベリー研究所の新たな取組」では、サイモン・ケイナー氏(セインズベリー日本藝術研究所(SISJAC)所長)から、セインズベリー日本藝術研究所の調査研究プロジェクトNara to Norwichをはじめとして、沖ノ島の調査研究が相互に影響を与えあっていることをご説明いただいた。さらに、報告4「日本の世界遺産から始まる国際共同研究の展開」では鈴木地平調査官(文化庁文化資源活用課文化遺産国際協力室文化財調査官)から、世界遺産登録推薦のために国内的な価値を国際的な価値、顕著な普遍的価値に翻訳する必要がある。推薦中は多くの遺産で国際会議が行われているが、登録後は行われていない事が殆どであること、また、初期の祭祀から三女神への変化についての国際比較が課題として残っているのではないか、と今後の課題も示された。

質疑応答では、「アジアだけでなくヨーロッパも含む広域な調査研究は素晴らしく、さまざまな人々や研究機関を巻き込んだグローバル・ネットワークで調査研究を行う時が来た! 」、「登録後、殆ど調査研究をしていないところが多い中、OUVを新たな視点からアップデートしている」とのコメントをいただいた。稲葉信子先生からは、「どのように古代の人々が航海したのか、についても研究を進めて欲しい」と今後の課題もいただいた。

ワークショップの最後には、溝口議長から世界遺産同士の国際的な交流の一例として、宗像市と姉妹都市である金海市大成洞博物館で現在開催されている特別展「The Island Where Gods Dwell, Meeting Gaya(「神宿る島」加耶と出会う)」の紹介があった。この展示は、世界遺産 「伽耶古墳群」 と本遺産群の交流がテーマとなっており、類似する出土品が並べて展示されるとともにイラストも用いられ非常にわかりやすい展示となっている。展示期間は2026年4月28日から10月11日まで。

4. おわりに

本ワークショップで最も伝えたかったのは、特別研究事業をはじめとする調査研究と、世界遺産の保存管理は、別個の取組として捉えられがちであるが、本来は一体のものであるということである。本遺産群での調査研究は OUVに通じる国際的な意義の探求だけでなく、国宝部会や地域史部会によるより詳細な観点からも行われている(注4)。国際的な意義と地域史的な意義の様々な次元での議論を交差して考える中で、全体としての遺産への理解は確実に深まり、徐々に核心に近づいてきていると実感している。

特別研究事業は令和9年度に総括の年を迎え、報告書の出版が予定されている。なお、最終年度の令和10年度には英語版報告書の出版が予定されている。今後もぜひ注目いただきたい。

また、ワークショップの様子は本遺産群のYouTubeチャンネルで近日中に公開予定である。

末筆ながら、本ワークショップに共催いただいた日本イコモス国内委員会、および、現地にてご参加いただいた皆様に、記して感謝申し上げます。

登壇者等(左から佐藤嘉洋課長、ガミニ・ウィジェスリヤ氏、岡寺、稲葉信子氏、チョ・ユジン氏、サイモン・ケイナー氏、溝口孝司氏、スーザン・ウィットフィールド氏、鈴木地平氏)

会場の様子

【参考文献】

注1:特別研究事業にかかる報告書は以下の通り。「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群保存活用協議会編集・刊行。

2019『古代東アジアの航海と宗像・沖ノ島』特別研究事業第1回国際検討会報告書

2020『古代東アジアにおける地域間交流と信仰・祭祀』特別研究事業第2回国際検討会報告書

2022『「古代東アジアの海洋信仰と宗像・沖ノ島』特別研究事業第3回国際検討会報告書

2023『「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 特別研究事業成果報告書』

2024『「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 特別研究事業成果報告書』(英語版)

2025『海域のネットワーク-交流と祭祀・信仰の変化-』第2期特別研究事業第1回国際検討会報告書

2026『宗像における祭祀・信仰の歴史的変遷の世界的意義』第2期特別研究事業第2回国際検討会報告書

なお、令和8年6月に実施した第2期第3回国際検討会の成果報告書『宗像における祭祀・信仰- 奉献品および地域史的視点から考える -』は、2027年3月に刊行予定。

注2:世界考古学会議(WAC8、WAC10)でのセッションの詳細については下記を参照

岡寺未幾2017「第8回世界考古学会議セッション「宗教遺産に関するグローバルな視座:世界的脈絡における沖ノ島および宗教の融合」について」『沖ノ島研究』第3号

「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群保存活用協議会2026「2025年度「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群調査研究事業概要」『沖ノ島研究』第12号

注3:佐藤信・溝口孝司編2024『世界遺産 宗像・沖ノ島 みえてきた「神宿る島」の実像』吉川弘文館

注4:国宝部会の詳細は『沖ノ島研究』第11・12号を参照。国宝部会・地域史部会成果報告書2027年3月刊行予定。

(福岡県文化局九博・世界遺産・文化施設課)