「国際記念物遺跡の日」記念ウェビナー開催報告 GISを活用した防災・減災:生きている歴史都市 ― 京都とカイロ
「国際記念物遺跡の日」記念ウェビナー開催報告 GISを活用した防災・減災:生きている歴史都市 ― 京都とカイロ
Report on the International Day for Monuments and Sites Commemorative Webinar: Disaster Risk Reduction with GIS: Living Heritage Cities, Kyoto & Cairo
高橋 暁 Akatsuki TAKAHASHI
2026年4月21日、ウェビナー「GISを活用した防災・減災:生きている歴史都市―京都とカイロ」が、立命館大学歴史都市防災研究所と国際記念物遺跡会議(ICOMOS)日本国内委員会の共催により開催された。本ウェビナーは、国際記念物遺跡の日(International Day for Monuments and Sites:IDMS)の関連行事として実施されたものであり、2026年のテーマ「紛争や災害時における生きている遺産への緊急対応」を踏まえ、歴史都市における防災・減災(Disaster Risk Reduction:DRR)の課題について議論が行われた。当日は、日本国内外から50名を超える参加者がオンラインで参加した。
歴史都市は、長い歴史の中で形成されてきた文化的価値を有する一方、多くの住民が生活し、都市機能が継続的に発展する「生きている遺産」としての特性を持つ。そのため、地震、火災、洪水などの自然災害に対して脆弱であるだけでなく、急速な都市化やインフラ整備による影響にも常にさらされている。こうした背景から、歴史都市における文化遺産保護には、個別の建造物保存にとどまらない、都市全体を視野に入れた包括的な防災・減災の視点が求められている。
本ウェビナーでは、これらの課題に対応する有効な手段として、地理情報システム(Geographic Information Systems:GIS)の活用に焦点が当てられた。GISは、文化遺産や都市構造に関する多様な情報を統合し、空間的に可視化する技術であり、災害リスクの把握、脆弱性評価、モニタリング、さらには緊急時の意思決定支援において重要な役割を果たす。
第1発表では、「生きている文化遺産としての歴史的カイロ―インフラ拡張、社会的圧力、そして管理・緊急対応におけるGISの役割」と題し、ヤーセル・エルシャイェブ博士(カイロ大学)が、歴史的カイロにおける急速な都市開発と文化遺産保護の課題について報告した。その中で、GISを活用した統合的管理の重要性が強調され、とりわけリスクや脆弱性を空間的に把握し、緊急時の迅速な対応を支える情報基盤としてGISが不可欠であることが示された。
第2発表「歴史都市カイロ―開発と遺産の狭間で」では、深見奈緒子博士が、歴史資料の活用と地域住民の関与の重要性について論じた。文化遺産保護は単なる技術的課題ではなく、社会的・文化的な営みであることが強調され、都市の変容を長期的視点から理解するためには、過去の記録を的確に読み解き、それを現代技術と結び付ける必要性が示された。これは、今後の研究および実践に対して重要な示唆を与えるものであった。
第3発表「歴史都市京都における地理空間情報の蓄積と活用」では、矢野桂司博士が、「バーチャル京都」プロジェクトを中心に、京都における地理空間情報の蓄積と活用事例を紹介した。4次元GISを用いた都市景観の復原や京町家の分布・変遷の分析は、文化遺産保全を科学的に支える新たな手法として注目される。また、デジタル技術を活用した情報共有が、行政、研究者、市民の連携を促進する基盤となり得ることも示された。
第4発表「歴史的水資源およびオープンスペースの災害リスク管理への活用―ネパール・ゴルカ地震の教訓を踏まえて―」では、大窪健之博士が、ローマにおける歴史的水資源およびオープンスペースの活用可能性について論じた。特に、ネパール・ゴルカ地震の経験を踏まえ、現代インフラが機能しない状況を想定した備えの必要性が指摘され、歴史都市における実践的な防災計画の策定に向けた重要な示唆が示された。
総括では、日本イコモスの岡田保良委員長が、各発表はいずれも異なる地域や専門分野を対象としながら、「歴史都市は生きている遺産である」という共通認識に基づいていたと述べた。歴史都市は単なる文化財の集合体ではなく、人々の生活や都市機能、社会経済活動が営まれる動的な空間であり、その保全には従来の個別的な保存手法を超えた包括的管理が必要であることが改めて確認された。
さらに岡田委員長は、歴史都市の防災・減災には、単一の技術や制度に依存するのではなく、歴史資料の活用、GISなどのデジタル技術の導入、地域社会の参加、行政および専門家の連携を組み合わせた総合的アプローチが不可欠であると指摘した。これらの要素を統合することによって、初めて持続可能な文化遺産保護が実現されるのである。
また、本ウェビナーは、京都とカイロという異なる文化的背景を有する歴史都市を比較することで、国際的な視点から知識共有の重要性を示す機会ともなった。岡田委員長は、IDMS 2026 のテーマである「紛争や災害時における生きている遺産への緊急対応」を背景とした本取り組みが、極めて時宜を得たものであったと評価した。
最後に、本ウェビナーの実施にあたり、共催機関であり、ユネスコ・チェア「文化遺産と危機管理」の拠点でもある立命館大学歴史都市防災研究所に対し、深い感謝の意を表したい。
(立命館大学歴史都市防災研究所)