第48回世界遺産委員会サイドイベント「文化遺産国際協力コンソーシアムの使命と活動 文化遺産保全に向けた専門家および機関を結ぶ分野横断的ネットワーク」開催報告
第48回世界遺産委員会サイドイベント「文化遺産国際協力コンソーシアムの使命と活動 文化遺産保全に向けた専門家および機関を結ぶ分野横断的ネットワーク」開催報告
48th World Heritage Committee Side Event: The Mission and Activities of JCIC-Heritage -A Cross-Sector Network connecting Experts and Institutions for Heritage Conservation-
青木 蘭 Ran AOKI
はじめに:文化遺産国際協力コンソーシアム(JCIC-Heritage)とは
「文化遺産国際協力コンソーシアム(Japan Consortium for International Cooperation in Cultural Heritage: JCIC-Heritage)」は、2006年に制定された「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律(文化遺産国際協力推進法)」に基づき、文化庁の委託事業として設立されたプラットフォームです。
国内外の大学、研究機関、行政機関、博物館、保存修復専門家、市民社会などの多様なアクターを結ぶ分野横断的ネットワークとして、以下の4つの柱を中心に活動を展開しています。
- 関係機関・専門家のネットワーク構築
- 各国・地域のニーズや取り組みに関する調査研究
- 文化遺産国際協力に関する基礎情報の収集と蓄積
- シンポジウムやセミナー等を通じた情報発信・普及啓発
設立20周年を迎えた現在、従来の資金・技術提供にとどまらず、相手国との対等なパートナーシップに基づく「双方向の協力」や、気候変動・紛争等の地球規模の社会課題への対応を見据えた連携を推進しています。
第48回世界遺産委員会サイドイベントの開催
2026年7月25日(土)、第48回世界遺産委員会の開催に合わせて、サイドイベント「The Mission and Activities of JCIC-Heritage: A Cross-Sector Network Connecting Experts and Institutions for Heritage Conservation(文化遺産国際協力コンソーシアムの使命と活動 文化遺産保全に向けた専門家および機関を結ぶ分野横断的ネットワーク)」が開催されました。
設立20周年の節目として企画された本サイドイベントには、会場定員を超える80名以上の国内外の専門家・関係者が来場し、これまでの実績の振り返りと今後の文化遺産国際協力の展望について活発な議論が交わされました。
開会挨拶およびコンソーシアムの活動概要
冒頭、ジョティ・ホサグラハール氏(UNESCO世界遺産センター副所長)より開会の挨拶が述べられました。ホサグラハール氏は、世界遺産保護が国際社会の連帯と責任の共有に基づく共同の営みであることを確認したうえで、多様な主体が協働するコンソーシアムの枠組みはその精神を具現化する好例であり、条約の戦略的優先課題である人材育成にも大きく寄与していると高く評価しました。
続いて、米山大三郎氏(文化遺産国際協力コンソーシアム事務局アソシエイトフェロー)より、コンソーシアムの設立経緯や組織構造、日本の文化遺産国際協力におけるハブとしての機能が紹介されました。また、20周年に際して国際情勢の変化に応じた「双方向の協力」の推進と、地球規模課題の中に文化遺産協力を位置づけていく将来展望が示されました。

活動事例報告(地域別の実践)
続いて、注目すべきコンソーシアムの活動事例三つが報告されました。
- エクアドル:震災復興と保存環境の整備 大平秀一氏(中南米分科会委員/東海大学教授)
2016年のエクアドル地震で被災した沿岸部博物館への支援について報告。中南米分科会での協議から現地調査、シンポジウム開催、成果報告書の刊行へと発展し、2022年の無償資金協力によるマンタ博物館への免震展示ケース導入など、多様な主体間の連携が具体的な保存環境の改善に結実した経緯が紹介されました。
- バーレーン:古墳群の保護と湾岸地域への波及 安倍雅史氏(西アジア分科会委員/東京文化財研究所文化遺産国際協力センター保存計画研究室長)
2007年のシェイハ・マイ王女来日を契機とした協力の基盤形成について報告。ディルムン期古墳群の発掘調査や現地研究センターの設立、3次元計測(フォトグラメトリ・UAV測量)研修を通じた人材育成が進められ、その成果がクウェートやサウジアラビアなど周辺諸国へ波及している実績が示されました。
- アフリカ:参加型再生と伝統技術の継承(UNESCO日本信託基金案件) 岡崎瑠美氏(アフリカ分科会委員/芝浦工業大学准教授)
UNESCO日本信託基金を通じた支援事例として、世界遺産ストーン・タウンにおける住民参加型の「マジェスティック・シネマ復旧事業」と、危機遺産であった「カスビのブガンダ王国歴代国王の墓」における木造・茅葺技術や火災リスク評価の知見提供による地元職人の育成・技術継承の成果が報告されました。
パネルディスカッション:国際協力の振り返りと今後の展望
パネルディスカッションでは、岡田保良氏(日本イコモス国内委員会代表理事/文化遺産国際協力コンソーシアム副会長)がモデレーターを務め、海外の専門家を交えた多角的な討議が行われました。
- ジョゼ・ルイス・ペデルゾーリ氏(ICCROM戦略企画部門長)
東文研等との長年の連携により、和紙・漆・木造建築の保存研修等を通じて90カ国・850名以上の人材育成に寄与してきた日本の実績を評価。気候変動や紛争など複雑化する現代の課題に対し、コンソーシアムとの一層の連携強化に期待を示しました。
- ドミトリー・ヴォヤキン氏(カザフスタン共和国親善大使)
ウズベキスタンでの「Meros」プロジェクトを例に挙げ、日本がもたらした技術や知見が現地研究者を通じて次世代へ受け継がれている「持続性」こそが日本の国際協力の最大の特質であると述べました。
- レオンス・キ氏(ブルキナファソ・シブ-シエ-ファウスティン大学研究員・講師)
アフリカのことわざ「片手だけでは拍手はできない」を引用し、日本の協力姿勢にある「Ubuntu(他者への思いやり)」の精神に言及。先住民文化と結びつく無形遺産のナラティブを重視した評価や能力構築の重要性を強調し、今後は大学教育や研究者の相互流動性の向上が必要であると提言しました。
- アントン・ウィビソノ氏(インドネシア共和国教育文化省文化遺産担当技官)
プランバナン寺院等の災害影響評価やACCU奈良による研修など長年の協力を高く評価し、有形・無形双方の保全において若手人材育成を中心とした連携継続への期待を語りました。
- 友田正彦氏(文化遺産国際協力コンソーシアム事務局長)
日本の協力が多様化する中でアフリカでの無形遺産案件が増加している現状に触れ、日本人専門家の直接的な関与の促進と、地球規模の課題に対応する強固な国際ネットワークの構築を目指す抱負を述べました。

最後に
ディスカッションの締めくくりとして、モデレーターの岡田保良氏より、「文化遺産は人類共通の財産であり、相互信頼と文化的多様性の尊重に基づく長期的な国際協力こそが、遺産を次世代へ継承するための鍵である」との総括がなされ、盛況のうちに閉会しました。

(文化遺産国際協力コンソーシアム)