「ISCIH及びNSCIH研究会」報告
「ISCIH及びNSCIH研究会」報告
Report of the ISCIH and NSCIH Study Group
伊東 孝 Takashi ITOH
「ISCIH及びNSCIH研究会」報告
「第12小委員会」(技術遺産)は、しばらく開催されていなかった。この間、国際ICOMOSには産業遺産(IH:Industrial Heritage)のISCが正式に発足、それに伴い日本イコモス国内委員会では、「第12小委員会」をIHのNSCへ移行することが理事会で承認された。
今回の研究会は、産業遺産のISCとNSCの合同でおこなうことにした。研究会の趣旨は、いままでの経緯を報告して、参加者間での情報共有を図り、あらたな組織体制のもとに産業遺産研究が開始される報告会でもあった(「ISCIH及びNSCIH研究会」報告 議事次第)。
本研究会は2025年12月20日(土)13:30~16:00に、文化財保存計画協会会議室およびZoomを利用して開催した。対面参加者は報告者5名および事務局長の矢野和之氏、ズーム参加者14名であった。
1.産業遺産関連国際会議の近況報告
ICOMOSの新しいISCIHの設置が報告され、 松浦利隆氏が日本代表、筆者(伊東孝)がNSCIH代表として選出されたことが共有された。TICCIHの2022年モントリオール会議では、佐渡金山のユネスコ推薦準備や高輪築堤の保存問題について報告された。産業遺産の国際的な認知と保存の重要性が強調され、来年以降の大会開催についても言及された。
2.TICCIHの会議
2022年のモントリオール会議ではグローバルサウスからの参加者が多く、とくに若いメンバーが参加していたことが、大島一朗氏から報告された。
TICCIH2025年のスウェーデンでのキルナ会議では、日本の産業遺産の現状について、製造業の衰退により大規模工場の閉鎖が頻発しており、保存への関心が低いことが報告された。2024年の佐渡金山の世界遺産登録や富岡製糸場の記念行事など、産業遺産に対する国内の関心の向上も言及された。
3.世界遺産関連会議報告
市原氏が各地見学会の感想を報告、モントリオールのエコミュゼ地域まち歩きやカナダのリドー運河見学などの運河遺産について説明した。
松浦氏は、富岡製糸場の世界遺産登録十周年記念の国際シンポジウムについて報告、群馬県高崎市で220名の参加者が集まり、ヘリテージエコシステムに関する群馬宣言が策定されたと述べた。
西川三津子氏は「明治日本の産業革命遺産」の十周年記念イベントについて報告、全国8県11市で24のイベントが開催され、東京のシンポジウムでは400名以上の参加者が集まったと説明した。
2024年5月、西川氏を含む6名の海外メンバーがサウジアラビア産業遺産ワークショップに招聘され、西川氏は「明治日本の産業革命遺産」登録プロセスについて報告した。現在のサウジアラビアの状況は、「明治日本の産業革命遺産」とは異なると説明した。その後、サウジアラビアの国内世界遺産担当局との業務提携についての提案があったが、氏はマンパワー問題などからその提案を断ったと報告した。
4.高輪築堤の保存問題報告
高輪築堤の保存問題について秋葉氏は、明治期の鉄道インフラ施設の一部が完全に破壊され、残りも少ない状況を説明、産業遺産の保存に対する国民的な意識の向上が必要であることを強調した。高輪築堤の調査研究は、産業遺産学会のワーキンググループが大成建設の自然・歴史環境基金の助成を受けて調査活動を進めたことが報告された。
5.門司駅周辺の文化財発掘調査/旧門司駅遺跡保存と移転計画
市原猛志氏は、1891年の機関車庫や岸壁施設などの重要な遺跡が発見されたが、建設計画の進行により保存の要望は叶わなかったと報告した。研究会参加者は、地方自治体の文化財を考慮しない複合施設建設について懸念を表明し、ヘリテージアラートの影響について議論した。現在、建物の基礎工事が進行中で、追加の調査はおこなわれない予定である。また、市原氏が旧門司駅遺跡の保存に関する顛末について報告した。2023年秋の市議会で、機関車庫基礎の一部を数平方メートルずつ残すことが決まったが、この件に関し保存運動の影響はなかったと述べた。保存された遺跡の展示場所や管理体制についての詳細計画は、未定である。
6.玉川上水と猿楽橋
伊東は、玉川上水の埋め立てられた渋谷区区域と渋谷区の橋梁:猿楽橋について報告した。
玉川上水の渋谷区の緑地整備のあり方に関する問題が地元住民から提起されており、石川幹子氏と協力して調査をおこなっていることが説明された。
猿楽橋は、昭和3年に設計された貴重な橋梁(竣工は昭和9年)として、架け替え時の問題と地域の反対運動について議論された。研究会では、文化財指定の可能性や保存方法について検討された。
7.TICCIH Kiruna第19回大会報告会議
TICCIHキルナ大会では、市原氏が「明治日本の産業革命遺産」の福岡県の教育事例について報告したことを述べた。
西川氏は世界遺産の保全に関する手引書の開発について報告し、文化財と産業遺産の保存原則の違いについて説明した。研究会ではまた、「明治日本の産業革命遺産」登録の影響力についても議論され、来年(2026)1〜3月に産業遺産情報センターで登録に関連した展示が予定されていることが報告された。
産業遺産の負の事例も報告されるようになった。筆者は、TICCIHキルナ大会で産業遺産の負の事例報告を受け、日本が産業遺産の「負の遺産」をいかに克服したかの事例を、次回のTICCIH大会で紹介することを提案した。市原氏は12月のTICCIH Bulletinで次期開催地を公募していることを紹介した。
8.今後へ向けて
松浦氏からは今後の課題として、産業構造の変化に伴う大規模工場の解体、軍事遺産の取り扱い、稼働中の産業遺産の保存方法などが提起された。
来年度の春秋に本研究会を再び開催し、研究会の今後のあり方について議論していきたい。