CIPA Heritage Documentationの活動について


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CIPA Heritage Documentationの活動について

Activities of CIPA Heritage Documentation

岡崎 瑠美 OKAZAKI Rumi

レーザースキャナー操作方法の実演

CIPAは1968年に International Society for Photogrammetry and Remote Sensing(ISPRS:国際写真測量・リモートセンシング学会)と共同で設立されたICOMOSの中で最も古い国際学術委員会の一つである。CIPAはもともとフランス語のComité International de la Photogrammétrie Architecturaleの略称であったが、現在の活動領域全体を十分に表さないとされ、2007年に現在利用されている CIPA Heritage Documentation(以下CIPA)が組織の正式名称として採用された。

CIPAは文化遺産のドキュメンテーションを担う専門家と、その情報の利用者を結ぶ架け橋として機能している。CIPAのミッションは二つあり、一点目は文化遺産のあらゆる側面に関する記録、ドキュメンテーション、および情報管理のための原則と実践の発展を促進すること、二点目はこれらの活動を支える 専門的なツールや技術の開発を支援し、奨励することである。

2026年3月現在、CIPAの会員数は1,203名であり、そのうち1,054名が正会員(regular member)、149名が専門会員(expert member)である。日本の会員数は8名である。筆者は2021年からCIPAの会員となり、国際シンポジウムやワークショップ、ウェビナーに参加してきた。本稿では参加したイベントの内容を振り返りながら近年のCIPAの活動を紹介する。

CIPA国際シンポジウム

CIPA国際シンポジウムは2年に1度開催される。直近では2025年8月25日から29日にかけて第30回CIPA国際シンポジウムが韓国・ソウルの国立中央博物館で開催された。本シンポジウムでは、文化遺産のドキュメンテーションを中心に、技術、保存、人文学を横断する多様で学際的なテーマが扱われ、研究者のみならず企業も参加するなど、学術研究と実務の双方の観点から活発な議論が展開されている。そのため、多くの参加者を集める国際的な学術交流の場となっている。シンポジウム開催期間中は企業や大学がプロジェクトや製品紹介のブースも出展されており、参加者は気軽に情報収集を行うことができる。

2025年ソウルのシンポジウムには200名以上が参加した。2023年にフィレンツェで開催されたシンポジウムは400名以上が参加している。欧州の会員が多いため欧州開催時には参加者が多くなる傾向がある。2021年はコロナ禍のため北京にてハイブリッド開催となり、筆者もオンラインで会議に参加したことを記憶している。日本では2009年に京都で第22回 CIPA国際シンポジウムが開催されている。

第30回CIPA国際シンポジウムのオープニング(会場:韓国・ソウル, 国立中央博物館)

CIPA国際シンポジウムに先立ち開催されたワークショップ

国際シンポジウムに先立ち、8月23日、24日は参加希望者に対してワークショップが開催された。7つのテーマから好きなものを選択することができ、筆者は ”Lucid Heritage: Digital Futures for Architectural Legacy” と “Mastering Heritage BIM, Preservation through digitization” の二つのワークショップに参加した。いずれも最先端の研究やプロジェクトをリードする専門家に企画されたもので充実した内容であった。受講者数も10名程度と小規模で講師や参加者と気軽に意見交換することができた。

タイトル:Lucid Heritage: Digital Futures for Architectural Legacy

運営:Beta City Center at University of Seoul/ Architectonics/ TechCapsule

概要:急速な都市開発が進行するソウルの世運商街の3D計測やGIS、AR/VRなどのデジタル技術を用いた記録、活用を手掛けるチームによるフィールドワークを踏まえたプロジェクト紹介が行われた。参加者は現地で携帯を利用した簡易な3D計測を実施し、その結果をもとにディスカッションを行った。

タイトル:Mastering Heritage BIM, Preservation through digitization

運営:Institute of Architecture at Hochschule Mainz, University of Bamberg/ Architecture Faculty at Warsaw University of Technology

概要:ヴォルムス・シナゴーグのH-BIM化を手掛けたチームがそのプロセスを説明しながら、H-BIMのワークフローを解説。

大阪万博CHEDARプロジェクト・ワークショップ

ソウルで開催されたCIPA国際シンポジウムの直後の2025年8月30日に大阪万博イタリアパビリオンにてMediterranean Heritage in the Digital Era: Facing Risks and Building Sustainabilityと題したイベントがCHEDAR プロジェクト(Cultural Heritage Digitalisation and Reconstruction)主催で開催された。CHEDARプロジェクトは、フィレンツェ大学が主導し、CIPA Heritage DocumentationおよびICOMOSイタリアの支援を受けて実施されているプロジェクトである。

CIPAからは、副会長でありCHEDARプロジェクトのリーダーでもあるGrazia Tucci氏のチームおよび事務局長のOna Vileikis氏が参加した。日本からは井川博文氏と筆者が登壇し、日本における文化遺産の保存や記録に関する事例紹介を行った。本イベントを契機として、日本とイタリアの文化遺産ドキュメンテーションに関する交流がさらに促進されることを期待している。

CIPAサマースクール

文化遺産のドキュメンテーションを短期間で学ぶためのサマースクールがおおよそ年に1回の頻度で開催されている。CIPAの役員メンバーやエキスパート・メンバーより講義や演習を受けることができICOMOSやCIPAの会員でなくても参加可能である。世界各国から幅広い年齢層やバックグラウンドを持つ参加者が集まり、国際的なネットワーキングの機会にもなっている。

筆者は2024年5月20~24日にギリシャ・ロドス島で開催された第13回CIPA国際サマー・スクールに参加した。2024年は22か国から39名が集まり、講師6名、TA8名で運営された。

ワークショップでは写真測量に関するレクチャーやプロジェクト事例の紹介、機材の実演、データ処理方法の実践演習が行われた。特に印象的だったのは、不明点があれば講師やTAに繰り返し質問できる点であり、参加者も熱心で文化遺産ドキュメンテーションに関する活発な情報交換が行われた。

前回のワークショップはネパール・ポカラで2026年1月15~19日にかけて開催され、次回は2026年6月にアルメニア・ビュラカンで開催される予定である。

CIPA名誉会長Mario Santana Quintero氏によるオープニング・レクチャー

2024年ワークショップの会場の一つとなったエーゲ大学

CIPA Emergent Professionals (EP)のウェビナー

ICOMOSの中でも最も活発なEPの一つである。EPメンバーは自身が手掛ける研究内容の発表をオンラインで行い、専門家から指導を受けることができる。CIPA国際シンポジウムの前には国際シンポジウムの参加方法や質問時のマナー等の情報をまとめており、若手への支援が手厚い。活発なメンバーが多く、CIPAのウェブサイトやSNSでイベント等の情報発信がされている。

2025年ICOMOS年次総会

ネパール・ルンビニで開催された2025年ICOMOS年次総会ではCIPA会長のFulvio Rinaudo氏が “Principles for Cultural Heritage Documentation” の草案を発表した。本文書は文化遺産の記録や管理に関するICOMOSの新しい国際原則の草案であり、1996年のPrinciples for the recording of monuments, groups of buildings and sitesを更新するものである。三次元計測やデジタルアーカイブなどの技術の活用、学際的協働、地域コミュニティの参加、データの長期保存と公開などが重要な原則として示されている。2021年から更新作業の検討が開始され、2026年の採択に向けて作業が進められている。

今後に向けて

2025年のCIPA国内委員会の再始動を契機として、日本において文化遺産ドキュメンテーションに関する更なる議論が展開されることを期待したい。また国内外の情報を共有するハブとしての役割も担うことが望まれる。新しいデジタル技術が急速に発展する中で、文化遺産ドキュメンテーションの分野も大きく変化している。今後の動向を継続的に追いながら、日本における議論や活動の展開にも注目していきたい。

参考文献, URL

- CIPA Heritage Documentation ウェブサイト
https://www.cipaheritagedocumentation.org/

- Efstratios Stylianidis ed., CIPA – Heritage Documentation 50 Years: Looking Backwards, ISPRS Archives, 2019
https://www.cipaheritagedocumentation.org/wp-content/uploads/2020/02/isprs-archives-XLII-2-W14-1-2019.pdf

- Quintero, M., Georgopoulos, A., Stylianidis, E, Lerma, J.L., Remondino, F., CIPA's Mission: Digitally Documenting Cultural Heritage, APT Bulletin: The Journal of Preservation Technology, Vol. 48, No. 4, SPECIAL ISSUE ON DOCUMENTATION, 2017, pp. 51-54

- Principles for the recording of monuments, groups of buildings and sites, 1996
https://www.icomos.org/charters-and-doctrinal-texts/