伝統的建造物群保存地区制度の誕生50年を迎えて -「伝統的建造物群保存地区制度創設50周年記念シンポジウム~まちなみを紡ぐ人々のあゆみ~」についての報告
伝統的建造物群保存地区制度の誕生50年を迎えて -「伝統的建造物群保存地区制度創設50周年記念シンポジウム~まちなみを紡ぐ人々のあゆみ~」についての報告
Marking the 50th Anniversary of the Preservation Districts for Groups of Traditional Buildings System — A Report on the 50th Anniversary Symposium: "The Journey of People Weaving Townscapes"
梅津 章子 Akiko UMEZU
1.はじめに
昭和50年の文化財保護法改正により「伝統的建造物群」が文化財種別の一つとして新たに追加されました。当時、失われつつあった日本の歴史的な集落・町並みの保護を目的として、新たに文化財種別として「伝統的建造物群」が追加されたのですが、その保護手法は単に文化財を守るだけではなく、その周囲の環境とともに面として保護するという手法が取り入れられたのです。市町村がこの面として保護されるエリアを伝統的建造物群保存地区(以下、「伝建地区」という。)として指定し、保護することが可能となりました。
伝建地区の保護制度は、基礎自治体である市町村が制度を主体的に取り組むこと、また文化財以外の一般の建物も文化財とともに規制することによって、面として歴史的風致を維持するという、当時としては画期的な手法であったといえます。
昨年は伝建地区制度が創設されてから50年となる節目を迎えました。半世紀にわたり制度が続けられてきた背景には、市区町村、学識研究者、そして何より伝建地区に関わる住民等のたゆまぬ取り組みが不可欠です。しかし制度創設から50年が経過するなかで、社会環境は大きく変わりました。特に少子高齢化によって歴史的集落・町並みを支える人々が減少するなかで、各地区とも時代の変化に対応しながら、今日まで集落・町並みを継承してきたことに改めて敬意を表したいと思います。
現在、国選定重要伝統的建造物群保存地区が43道府県106市町村129地区となりました。令和7年度、文化庁は全国伝統的建造物群保存地区協議会(以下、「伝建協」という。)とともに、50周年を記念して1年間にわたり、様々なイベントを行ってきました。その中でも特に令和7年7月4日に京都市内で開催された50周年記念のシンポジウムは、制度を見つめ直すよい機会となりました。ここにシンポジウムの概要を報告したいと思います。
2.シンポジウムの概要
当シンポジウムは伝建協が毎年開催する総会に合わせて開催されました。伝建協とは伝建地区の保存整備に関する調査・研究、情報の収集及び発信等を目的として、昭和54年に伝建地区を有する13市町村から発足した協議会組織です。毎年、加盟市町村の持ち回りで総会を開催し、各地での取り組みや課題をみんなで解決するという意識をもって集まっています。最近ではブロック毎に研修会を開催し、106市町村全体で129地区を支えている体制といえます。また平成14年からは伝建地区を支えているのは行政だけではなく、地域の人々でもあるという考えにもとづき、総会に合わせて住民向けのプログラムも準備し、以後、総会では行政、地元住民等がそれぞれの立場での課題を共有するようになっています。今回のシンポジウムでも、伝建地区を生きた文化財として継承し、支えてきたのは、住民であるという意識に立ち、住民プログラムを兼ねての開催とし、タイトルは「まちなみを紡ぐ人々のあゆみ」としました(写真1)。


シンポジウムは主催者である文化庁の挨拶から始まり、国学院大学の下間久美子教授から基調講演をいただきました(写真3)。続いて、シンポジウムの副題にも掲げた「まちなみを紡ぐ人々のあゆみ」を辿るために、最初に選定された5市町村(仙北市、南木曾町、白川村、京都市、萩市)7地区の住民組織のあゆみについての報告がありました。

3.各地での取り組みについて
最初に「角館伝建群保存地区の町並みを守る会」の柴田様から報告をいただきました。守る会の人々は「規制」ではなく、きめ細やかな取り決め事を地区住民、事業者とで共有し、道路、側溝の清掃に心がけていること等、住民が主体的に取り組んでいることについて報告がありました。春の枝垂れ桜や秋の紅葉シーズン、積雪時には多くの観光客を魅了してやまない地区ですが、守る会の人々が日々、維持管理をしているからこそ美しい景観が維持されていることを知りました。こうした自主的な取り組みによって、住民のみならず、観光客をはじめとした来訪者が心地よく過ごせていることを教えてくれました。
二例目は「妻籠宿を愛する会」理事長の藤原様より、公益財団法人妻籠宿を愛する会の概要について説明がありました。会の中には5つの委員会が設置され、それぞれが目的を明確にもち、役割をもって妻籠宿の保存・活用に取り組んでいることについて説明されました。「売らない、貸さない、壊さない」という住民憲章について周知の事実ですが、その背景には一つ一つ、時代に応じて話し合いが重ねられ、解釈されていることを改めて知ることになりました。妻籠宿は50年前の姿とほぼ変わらず維持されており、「凍結保存」といわれることもありますが、人々の生活は凍結されることなく連綿と続けられていることを知りました。最近ではインバウンドの人が増えている妻籠宿ですが、外国人の方々に対するおもてなしの取り組みについての報告がありました。宿場町とは歴史的にも多くの人が往来する街道沿いの集落です。令和の宿場町としてのおもてなしを報告していただきました。
三例目は白川村教育委員会事務局の尾崎様からの報告でした。尾崎氏は伝建地区の担当者であるとともに住民でもあります。白川村は「結」によって茅葺屋根の葺き替えをしていることは広く知られていますが、この「結」の精神は、屋根の葺き替えだけではなく、集落を維持するための基本的な理念であり、この「結」の精神を継承していくことが、荻町集落を継承することにもつながるというお話しがありました。さらに白川村ではひとりひとりの住民が自分事として積極的に関与していますが、行政も伝建地区を理解してもらうためにも、わかりやすいようにガイドラインを作成し、配布しています。これは取組のひとつに過ぎませんが、行政と住民とがひとりひとりが当事者としてかかわっていることがわかります。
四例目は「祇園新橋景観づくり協議会」副代表の秋山様からの報告でした。他地区同様に多くの観光客を受け入れてきましたが、茶屋町としての文化を格式高く継承する為に特に心がけているということでした。一時は観光客の写真撮影や音声ガイドの騒音など、無秩序な観光地化が進んでいたように聞いていましたが、協議会の人々が各事業者に働きかけ、写真撮影を観光客の少ない午前中に限定するようにお願いしたり、禁止事項を伝えるしおりを作成して業者に配布したりと、京都ならではの機転の効いた言い方で伝えていました。規制ではなく、お願いすることによって、来訪者、業者などの協力が得られるのだと感心しました。
最後は「萩市堀内町内会」の北野様からの報告でした。萩藩の上級武士の住宅が建ち並ぶ武家町ですが、現在では静かな住宅地として継承されています。連続する美しい土塀は圧巻です。堀内地区の方々は「文化財だから」という意識で守るのではなく、「良好な住宅地」として町内会として取り組みをしていました。町内会ですから、伝建地区の周辺の人も一部参加していますが、その人たちも堀内地区を大切に思い、その思いが清掃活動や自治会の取り組みに反映されていることを知ることになりました。
どの地区も個性を活かしてまちづくりを進めていること、また50年間、あるいはそれ以前から時代の変化や社会状況に応じて試行錯誤をしながら取り組んでいることを知る機会となりました。そしてどの団体も、住民側としてできることを行い、そして規制という形をとらず、共通ルールを持っていることが印象的でした。そして最後には各地区で直面している課題をお話くださいました。最初に選定した7地区は長年にわたって鋭意取り組んできたにも関わらず、満足することなく果敢に挑戦していることに改めて敬服しました。
4.文化庁長官表彰
各団体の発表後に、文化庁長官から各団体、最初に選定された5市町村、そしてなによりも現在106地区の団体をとりまとめている伝建協に対して長官表彰させていただきました(写真4)。

5.さいごに
当該シンポジウムは文化庁の職員にとっても伝建地区の意義、役割を学ぶ機会となったと思います。会場の都合上、人数は制限されていましたが、文化庁のYouTubeでアーカイブを公開しています。出席できなかった方は、是非、ご視聴ください。
https://www.youtube.com/playlist?list=PL_ndIdJX38cBBMt85r7YIe3IIlZ-FyInn