研究会報告「日本イコモス第4小委員会(世界遺産)研究会 第47回世界遺産委員会と世界遺産条約に関する昨今の動向」


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研究会報告「日本イコモス第4小委員会(世界遺産)研究会 第47回世界遺産委員会と世界遺産条約に関する昨今の動向」

Seminar Report of the 4th Sub-committee of ICOMOS Japan “The 47th session of the World Heritage Committee and recent trends regarding the World Heritage Convention”

藤岡 麻理子 Mariko FUJIOKA

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実施概要

日本イコモス第4小委員会(世界遺産・主査 岡田保良)は2026年1月22日(木)17時半より、研究会「第47回世界遺産委員会と世界遺産条約に関する昨今の動向」を対面・オンラインのハイブリッドにて開催した。2025年7月6日~16日にかけてパリのユネスコ本部において開催された第47回世界遺産委員会(議長国:ブルガリア)の内容と論点、および世界遺産条約をめぐる昨今の動向について日本イコモス会員間で共有し、議論を行うことを目的とするものである。第4小委員会ではこれまでも毎年の世界遺産委員会をうけて同趣旨の研究会を開催しているが、今回は小委員会コアメンバーの大野渉氏(株式会社プレック研究所)、文化庁主任調査官の西和彦氏の順で報告をいただき、その後質疑応答を行った。参加者は60名強であった。

報告と質疑の概要

大野氏からは第47回世界遺産委員会の概要として、具体的件数や注目される案件にふれながら、新規登録・拡張の審議状況、危機遺産リストに関する状況、暫定リスト記載件数の変動、SOCレポート(保全状況報告)の審議状況、事前評価(PA: Preliminary Assessment)制度に関する制度変更、世界遺産条約における文化的景観のカテゴリーを見直す必要性について議論があること等が報告された。

西氏からは世界遺産条約をめぐる昨今の動向として、世界遺産委員会におけるアクターの変化、条約締約国のオープンエンドワーキンググループ(OEWG: Open-Ended Working Group)での議論のトピック、遺産影響評価(HIA)の重視や決議におけるcarrying capacity(収容力)への言及の増加といった保全方策のトレンド、世界遺産委員会で実際に議論されるSOCレポートの件数が限られていること、全構成資産がすべての評価基準に貢献しなくてはいけないのかあるいは全体として顕著な普遍的価値を証明できればよいのかといった評価基準をめぐる解釈の変容、審査過程における諮問機関と締約国の「対話」のあり方の難しさ等、幅広い話題について言及がなされた。

質疑では、文化的景観の新たなカテゴリーとして想定されること、今回の世界遺産委員会におけるwider settingに関する議論の有無、登録基準(vii)の文化遺産への適用可能性に対する考え、事前評価制度の運用等について参加者より質問があり、やりとりが交わされた。また、文化遺産のcarrying capacityについて、ICOMOS文化遺産観光に関する国際憲章(2022)にふれつつ、その重要性を指摘する発言があった。

全体として多岐にわたる内容であったが、本稿では一定のまとまりがあるトピックとして特に新規登録・拡張登録の審議および事前評価制度に関し、以下に報告内容の概要を記録しておきたい。

<新規登録・拡張登録の審議>

今回の世界遺産委員会では全32件(文化遺産24件、自然遺産7件、複合遺産1件)の新規登録・拡張登録の推薦案件が審議され、26件の新規登録(文化遺産21件、自然遺産4件、複合遺産1件)と2件の拡張登録が決議された。文化遺産と複合遺産に関しては、ICOMOSから登録勧告が出ていたのは13件(文化遺産12件、複合遺産1件)であった。大野氏からは、締約国と諮問機関のダイアローグもおそらくは影響し、近年は記載勧告の件数が多かったが、今回は情報照会と記載延期の勧告も多く、前回までとは傾向が異なっていたという所感が述べられた。また、複数の構成資産を除外して記載決議がなされたもの、ICOMOSが世界遺産としての潜在的可能性があると認めながら不記載勧告を出していたもの、文化的景観として推薦されたものの文化的景観としての価値は認められずに記載決議に至ったもの、過去に推薦された際には記載に至らず、今回新たな形で推薦されて記載決議に至ったものなど、世界遺産リストへの登録にかかる様々に入り組んだ背景についても紹介があり、価値づけと価値評価について考えさせられることとなった。

その他、カメルーン・チャド・ニジェール・ナイジェリアが2020年に共同で推薦している文化遺産1件、およびパレスチナが2024年に推薦している文化遺産1件は、それぞれ武力紛争の影響により現地ミッションが実施できず世界遺産委員会での審議に至っていないという状況も共有された。

<事前評価制度>

第44回世界遺産委員会(2020)で導入が決議された事前評価制度について、オープンエンドワーキンググループでの議論を経て制度変更があり、作業指針も改正されたことが報告された。事前評価は暫定リストへの記載から1年を経過していることが申請要件であったが、この変更により、記載2週間後から申請可能となった。世界遺産登録にかかるプロセスの長期化を避けるべきという意見を考慮したことによるという。事前評価の有効期限は5年であるが、事前評価の結果が出てから推薦までは1年以上空けなくてはいけないため、推薦の機会は4回のみであることも大野氏からは指摘された。

事前評価は1か国あたり年1件申請できるが、確度が高いと思われる案件を出している国もあれば、登録できそうかの様子見として出している国や、一度に複数案件を申請し、1件を残して取り下げる国もあるとのことであり、制度の使い方は国によって異なっているようである。なお、個々の資産の事前評価結果は当該国以外には公開されていないため、その全容も各国の受け止め方も現時点では明らかではなく、西氏からは、この新たな制度の評価はそれを経て登録される資産がうまれて初めて可能になるのではないかとの指摘があった。

さいごに

世界遺産条約の履行に関する制度は、運用状況や締約国の状況により少しずつ変化し続けており、そうした制度更新と関連議論をフォローし世界遺産のあり方を考える機会として、小委員会では今後も継続して研究会を開催していきたい。一方、この研究会は世界遺産委員会の報告を主旨とし、個別テーマを深めるには至らないため、関心と必要に応じ、テーマ別研究会の開催も検討していければと考えている。

(國學院大學観光まちづくり学部)