3次元計測と国際協力事業
3次元計測と国際協力事業
3D Measurement and International Cooperation Projects
安倍 雅史 Masashi ABE
はじめに
文化遺産の記録分野では、近年、Agisoft 社のMetashape やスマフォ・アプリのScaniverse などを用いた 3 次元計測の活用が急速に広がっている。これらの技術の導入により、作業時間が大幅に短縮されたのみならず、従来とは比較にならない高精度で文化遺産をドキュメンテーションすることが可能となった。
ここでは、東京文化財研究所が実施している 3 次元計測に関連した国際協力事業について紹介したい。
バーレーンの文化遺産の3次元計測
東京文化財研究所は長年にわたり、中東バーレーンにおいて、世界遺産「ディルムンの墳墓群」の発掘調査を行ってきた。2023 年からは、新たな取り組みとしてイスラム墓碑の 3 次元計測事業を開始した。
バーレーンのモスクや墓地には、11 世紀から19 世紀にかけて制作されたイスラム墓碑が約 150 基残されている。これらの墓碑にはアラビア文字による装飾が施され、コーランの一節や被葬者に関する情報が刻まれている。そのため、中世・近世期のバーレーンを研究するうえできわめて重要な史料となっている。
しかし、土中に含まれる塩類の影響による表面剥落など、保存状態は決して良好とは言えない。この状況を踏まえ、バーレーン文化古物局と協議を行い、現存するイスラム墓碑の全点を3次元計測することを決定した。
3シーズンにわたる計測の結果、2025 年に作業を完了し、現在、 Sketchfab の東京文化財研究所のページ(https://sketchfab.com/tobunken)にて3次元データを公開している(図1)。今後、これらのデータが墓碑の保存管理だけでなく、バーレーンの中世・近世史研究でも広く活用されることを期待している。

湾岸諸国を対象にした3次元計測実習
東京文化財研究所は、文化庁の文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、2023年より湾岸諸国の専門家を対象に、文化遺産の3次元計測とその活用に関する研修を実施している。
当初の研修は、バーレーン文化古物局から「今後、博物館や史跡でARやVRといったデジタル・コンテンツを充実させたい」という要望を受け、バーレーンの専門家を対象に開始したものであった。
しかし、この研修は湾岸諸国の間で評判となり、クウェートやサウジアラビアなど、ほかの国からも同様の研修の開催を求める声が寄せられるようになった。
そこで、2025年には、バーレーン、クウェート、サウジアラビアの3か国で研修を実施することとなった。
各国のニーズに応じて、サウジアラビアでは「考古資料の3次元計測」(図2)と「最新デジタル技術の活用」に関する研修、バーレーンでは「建造物の3次元計測」に関する研修、クウェートでは「遺跡のUAV測量」に関する研修を行った。2025年の研修に参加した湾岸諸国の専門家の延べ人数は、なんと60名に達した。

海外調査のための3次元計測実習
さて東京文化財研究所は、3次元計測の第一人者である公立小松大学の野口淳先生を講師に迎え、2023年から毎年、日本の専門家を対象とした「海外調査のための3次元計測実習」を実施している。本実習の目的は、日本の専門家に3次元計測の手法を習得していただき、その後、おのおののフィールドで海外の専門家へ技術を普及してもらうことにある。
研修は、毎年2日間または3日間の日程で行われ、MetashapeやScaniverse、Matterport、UAV(ドローン)などを用いた3次元計測の実習に加え、Cloud Compareを使って3次元モデルから展開図や断面図、等高線図、段彩図などを作成する方法も学んでいただいている。また、Artec3D Japanによる最新3Dスキャナーのデモ体験なども実施している。
参加者は、大学教員から学部学生まで幅広く、また考古学や建築、保存修復などさまざまな分野から募集している。今後、ぜひ参加していただきたい。
(東京文化財研究所 保存計画研究室長)