国際会議「考古遺跡の整備とオーセンティシティ」


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国際会議「考古遺跡の整備とオーセンティシティ」

International Conference “Conservation and Interpretation of Archaeological Sites and Authenticity”

森本 晋 Susumu MORIMOTO, 脇谷 華代子 Kayoko WAKIYA

国際会議エクスカーション平城宮跡
国際会議エクスカーション平城宮跡

公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所(ACCU奈良)は、事務所開設の2000年当初から国際会議を継続して開催し、長年にわたり文化遺産保護をめぐる議論を進めてきている。1994年に奈良で開催された世界文化遺産「奈良コンフェレンス」から30周年となったのを記念し、2024年の国際会議では、「オーセンティシティ」をテーマに議論を深めた。

今回は前回のテーマを継承しつつ、対象を「考古遺跡」に広げて議論するため文化庁と共催で2025年12月17日と18日に奈良市において国際会議を開催した。テーマは「考古遺跡の整備とオーセンティシティ “復元の是非”を超えて:アジアの多様な実践と論理」である。

会議は、ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)、独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所・奈良文化財研究所、奈良県、奈良市の後援ならびに文化遺産国際協力コンソーシアムの協力を得ている。

会議は英語でおこない日本語との同時通訳を配している。他言語での発表については、日本語に翻訳した後に英語へと翻訳した。

12月17日水曜日は午前中に、平城宮跡の第一次大極殿、東楼復原工事現場などを見学した。本会議に先立ってエクスカーションを実施した目的は、午後からの論点や各発表に反映される「平城宮跡の整備」について、参加者が実際に現地を実見・体感し、共通の理解のもとで議論に臨むためであった。奈良文化財研究所の案内のもと、整備方針や復元建物が全体の整備計画の中で果たす位置づけ、さらに復元の根拠となる調査・研究成果についても説明を受け、理解を深める貴重な時間となった。

午後から奈良県コンベンションセンターにて国際会議が開会となる。

奈良文化財研究所の本中眞所長が「考古学的遺跡における木造建造物の復元ー世界遺産『古都奈良の文化財』・平城宮跡を事例としてー」と題する基調講演をおこなった。平城宮跡は建造物が失われてから1300年もの歳月が経過している考古遺跡であり、復元建物は現代の新建築であってOUV(顕著で普遍的な価値)を伝えるアトリビュートではないことを強く訴えた。一方で、宮跡内の復元建物は地下遺構の確実な保存と信頼性の高い研究の成果により整備されたものであり、その視覚的役割や新たに生まれる価値の重要性についても指摘した。また、世界遺産委員会における過去の復元建物への指摘と、それに対する日本側の説明の経緯が紹介され、平城宮跡では、復元建物に偏ることなく、地下遺構を保護する沼地、地下遺構の植栽による表示、発掘調査成果の露出展示など、多様な手法を組み合わせて来訪者が遺跡を理解できる整備がおこなわれていることを強調した。こうした復元、保存、表示を総合的に組み合わせた「バランスよい整備」こそが、平城宮跡の大きな特徴であり、世界遺産としての価値を適切に伝えるための重要な考え方であることを示した。

次いでICOMOS世界遺産顧問のリチャード・マッケイ氏が「考古遺跡 保存・管理とその意義」と題する講演をおこなった。世界各地の遺跡を例に復元の有無やその詳細について述べ、復元は必ずしも必須でなく、いろいろな解釈・選択がある中のひとつであるとした。

初日最後の講演は、東京大学の海野聡氏による「遺跡復元の価値と復元学」である。建物の継承には、現存建物、式年造替、復元があることを指摘し、復古的な新築についても触れた。文化遺産の価値は多様であるが、復元する時は正しいものを示すことが重要であると述べた。

講演の後、筑波大学名誉教授の稲葉信子氏、文化庁の西和彦氏を司会進行役、ICCROMのロヒト・ジギャス氏をサマライザーとして討議をおこなった。文化遺産の価値はひとつではなく、多様な視点が必要である。コミュニティも多様であり価値も複雑になると指摘された。また復元時に場所を変える場合についても議論された。

二日目の12月18日木曜日はアジア各国の考古遺跡での復元の事例について、6本の講演がある。

まず、中国精華大学の肖金亮氏が「隋唐洛陽城遺跡に関する事例研究」を中国語で講演し、現地で遺構を保護した上で外観だけを復元した保護シェルターを現代の技術を用いて建設している事例を紹介した。肖氏は、この手法が復元をめぐる制度的・学術的論争を回避しつつ、地下遺構を直接見せることで真正性と教育的価値を両立させている点を強調した。外観の復古に伴う推測や補完についても、遺跡の意義を直感的に伝えることが可能であり、教育的価値の観点からも重要であると述べた。氏はこの考え方を「証明の可能性」と呼び、隋唐洛陽城遺跡公園の整備を、真正性と教育的価値を両立させたモデルケース、いわゆる「洛陽モデル」と呼ばれていると紹介した。

次いで、いちのへ文化・芸術NPOの高田和徳氏が「地域に根差した遺跡の整備活用と研究 岩手県御所野遺跡から」を講演。御所野遺跡は東北北部の縄文集落遺跡で、発掘調査に基づき竪穴住居などを忠実に復元している。復元建物は教育的利用に加え、土屋根の居住性や焼失実験などの検証材料として、新たな価値を示す役割も果たしている。この復元建物と発掘成果に基づき再現された周辺景観が一体となり、体験・実験活動を通じて学習や保存が進められるなど、四季の変化を感じられる動的な遺跡景観が形成されている例を紹介した。

休憩の後、モンゴル文化遺産保護局のオドフー・アンガラグスレン氏が「エルデン・ズー僧院大ツォグチェン寺とバルーン・フレー僧院バット・ツァガン寺の復元の実現性」と題して講演した。モンゴルでは再建に該当する事例が多く見られるものの、必ずしもオリジナルの外観が維持されていない例もあることを示した。さらに、モンゴル国内では「修復」と「再建」が同一の用語で表され、両者の区別がなされていないことが、問題をより深刻なものにしている点を指摘した。

午前中の最後として、韓国国立伽耶文化遺産研究所のホン・バルグム氏が「韓国考古遺跡復元に対するオーセンティシティ及び最新傾向 ー慶州・新羅王京の中核遺跡を中心にー」を講演した。新羅関係の復元例をいくつか挙げて、研究の進展による復元案の更新について述べ、国内では実物復元には慎重な意見が多く、主要な遺跡の解説・展示方法がAR・VRなどのデジタル技術に移行しつつある事例を紹介した。

昼食の後、ベトナム国立考古学研究所のブイ・ミン・チ―氏が「考古学的根拠から見る李朝時代のベトナム宮殿建築 形態学的同定と東アジア的文脈における比較分析」をベトナム語で講演した。タンロン皇城では李朝の時期の遺構が多く見つかっているが、この時期の現存建物はベトナムにはなく、上部構造を復元するための制約が大きいことを述べた。出土した建物模型などを参考に復元研究が進められていることが紹介された。

会議の最後に、筑波大学名誉教授の稲葉信子氏、文化庁の西和彦氏を司会進行役、ICCROMのロヒト・ジギャス氏をサマライザーとして総合討議をおこなった。

本会議では、アジアにおける考古学的遺産の復元(再建)に関する多様な実践と理論が示された。復元は、物理的再建や実験的再建、保護シェルターの活用、AR・VRなどのデジタル技術の利用に至るまで幅広く、文脈に応じた戦略の選択肢として各国の実践に反映されていることが明らかにされた。

さらに、「復元(再建)reconstruction」の概念は国ごとに解釈が異なる課題も浮き彫りとなった。たとえば中国では、「名称」「材料」「位置」「形態」「規模」など複数の基準に基づき評価される場合があり、復元の解釈の幅広さが示されている。

加えて、失われた考古遺跡における建物遺構の復元は、価値を伝える手段であると同時に、実証・教育、伝統技術の継承など新たな価値を生む事例も多く議論された。このため、復元の意思決定においては、真正性(authenticity)や完全性(integrity)、資料の信頼性、そして遺跡内における復元建物の役割などを総合的に考慮する必要がある。また、復元の価値は固定的ではなく、社会的・文化的文脈の中で再評価され得るものである。

こうした議論を通じ本会議は、復元(再建)を単なる再現行為にとどめず、遺産の価値をとらえ直すことで、そこから生まれる新たな価値や文化的意義を捉える重要性を改めて示す機会となったと言えるだろう。会場参加者に加え19か国182名のオブザーバーが会議を視聴した。

本会議の報告書は、2026年3月末に刊行予定である。

(ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所)

国際会議議論の様子1

国際会議議論の様子2