巻頭言(2026年春号)


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巻頭言(2026年春号)

Foreword (Spring 2026)

岡田 保良 Yasuyoshi OKADA(日本イコモス国内委員会委員長)

春号➀
チョガ・ザンビール遺跡(焼成煉瓦積みの貯水槽)

水と文明

2026年最初のウェブマガジンをお届けします。

今号では、昨年新たに発足しましたCIPA(Heritage Documentation)国内委員会の動向に注目して特集記事が組まれています。ICOMOSでは最も歴史ある、そして活発な学術委員会です。20年近く前に京都で開催されたその国際大会を傍聴したことがあるのですが、これからは日本国内でもそのような関心を寄せる方々の繋がりと活動に期待を寄せたいところです。

私がCIPAに関心を寄せた契機は、当時、熊本大学の友人たちが行っていたギリシアでの遺跡調査にたびたび参加していたからでした。当地で学んだ最大の収穫は「都市の原点は水にある」という実感でした。山がちなギリシアでは山際の至る所に泉が湧き、狭隘な土地でもその水は直ちに命の糧となり、泉のほとりには人々の生活が生まれる必然がありました。ただ、たとえ水があっても利用できなければ人の暮らしは生まれないのも事実です。暮らしやすい平地に水をもたらす人々の知恵が集落を、都市を生みました。ローマ世界の水道橋はもちろんですが、ティグリス、ユーフラテスの下流域には大河から水を引いた運河の痕跡が縦横に走っています。ナイル川沿いでは洪水の水を溜める工夫があったようです。

古代ペルシア帝国の地イラン、今日現在たいへんな事態に陥っていますがそれは措くとして、当地では、山間の伏流水や井戸の水を、蒸発を避けて延々地下に通して町や畑に引くカナートあるいはカレーズという知恵の産物が知られています。1978年に世界遺産登録を果たしたチョガ・ザンビールという紀元前13世紀頃の王都の遺跡では、市壁の外側にビチュメンをモルタルとして焼成煉瓦を積んで貯水槽を築き、近隣の川から引いた水をろ過して蓄え、そして市壁の内側に水汲み場を作っていました(写真1)。同じ年に世界遺産となったイスラームの古都イスファハーンを潤す川の名ザーヤンデは、まさに「命を与える者」という意味だそうです。

写真1 チョガ・ザンビール遺跡(焼成煉瓦積みの貯水槽)

そして私たちの江戸東京はというと、その都市としての発展は、西に控える多摩川の水を、いくつかの分岐を通じて市中に運び入れた玉川上水の賜物です。その遺構が何十キロにもわたって史跡に指定されていることを、恥ずべきことに、私は最近になって知りました。ところが渋谷区内の一部では上水跡はもはや痕跡としての緑地帯でしかなく、しかも史跡であることを無視するような園地整備が進んでいたのです(写真2)。神宮外苑再開発問題への取り組みに続いて再び市民の方々に支えられつつも石川幹子氏のご尽力が私たちを突き動かしました。この事態に対し、日本イコモスは提言を発し、今年の正月明け、石川氏らとともに渋谷区を訪ね、申し入れをしました。提言内容は私たちのウェブサイトをぜひご覧ください。私たちの訪問に対し、長谷部区長はじめ区の対応は極めて好意的とすら言える応対ぶりで、今後の整備事業を期待をこめて見守りたいものです。

写真2 整備という名の玉川上水跡改変(笹塚駅付近)

イコモス総会+国際シンポジウム

すでに報じられているところですが、2026年10月15日から10日間、24日までマレーシアのサラワク州州都クチンで総会が開催されます。3年に一度実施される役員選挙も気になりますが、まずは総会とシンポジウムへの皆さまの参加をお待ちしています。ICOMOS本部のウェブサイトにあるGA2026のページ、あるいは本部発2月18日付のE-News、日本イコモス広報委員会発みなさま宛ての3月9日付Eメールなど、ぜひご参照ください。

なお、このたびイコモス年会費の改定につきまして、多くの方々の賛意を得ることができました。またこの機会にお願いしましたアンケートにも様々なご意見を賜りました。協力いただきました方々に、末尾ながら謹んでお礼申し上げます。