火災からの復元:「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の保全状況
火災からの復元:「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の保全状況
Recovering from the Fire - State of Conservation on Gusuku Sites and Related Properties of the Kingdom of Ryukyu
新垣 力 Tsutomu ARAKAKI
![首里城正殿等火災状況(11月1日14時頃撮影)出典:令和元年度首里城復元に向けた技術検討委員会(第1回)資料1[1]](/media/images/HuoZaiZhiHou.width-800.jpg)
琉球王国のグスク及び関連遺産群
【基本情報】
登録2000年、Criteria: (ii)(iii)(vi)
統一を達成し、中国、韓国、東南アジアと日本との仲介貿易で大きな役割を演じた14世紀後半から18世紀末の間の、琉球王国の特徴を表す文化遺産群。グスクと呼ばれる城塞建築が集中する沖縄本島中部を中心に、国頭から島尻にかけての次の9遺産が登録された。今帰仁城跡、座喜味城跡、勝連城跡、中城城跡、首里城跡、園比屋武御嶽石門、玉陵、識名園、斎場御嶽で、重要文化財2棟、史跡7、特別名勝1が含まれている。(ユネスコHP https://whc.unesco.org/en/list/972)
資産に影響を及ぼしている要因(2024年)
火災
1. 火災による世界遺産の顕著な普遍的価値への影響
2019年10月31日の火災により、首里城正殿を含む9棟の建造物が全焼、2棟が一部焼損した。このとき焼失した首里城正殿は、周知の通り1992年11月に竣工した復元建物(以下、平成復元)である。
平成復元は、「1712年に再建され、1925年に国宝指定された正殿の復元を原則」としており、2000年の世界遺産登録時の首里城正殿の真正性は、「戦災で焼失する前の姿の実測図や写真をもとに復元されただけでなく、広範囲に及ぶ発掘調査の結果にも厳格に従って復元された。失われた建造物の正確なレプリカは、今や琉球人の誇りを象徴する偉大なモニュメントとなっている」(一部抜粋)と、記されている。
2020年1月31日、文化庁の被害状況報告では、被害は「正殿において展示・研究のために露出していた部分の遺構2箇所が被災」し、「石材表面に生じた劣化が確認されているが、損傷状況については詳細調査を実施中である」とし、「今回損傷した正殿の露出遺構の面積は、史跡範囲に対し約0.05%と一部に限られ、露出部分以外の遺構は盛土層で保護されており火災による影響はないと考えられる。また、全焼・一部焼損した復元建造物についても、前回の復元に関する資料が残っており、復旧は可能。以上より、世界遺産の顕著な普遍的価値に与える影響は軽微と考えられる」とされた。
2020年5月文化庁の復旧進捗状況報告では、世界遺産の顕著な普遍的価値を持つ被災した上記遺構に関し、「被災後シートを掛けて一時的な養生を行」い、その後「地元自治体の文化財担当官や文化庁の専門家の監督の下、被災遺構の詳細調査を行い、2月に入り被災遺構のより安定した環境を確保するために覆砂による保護措置を行った。3月後半からは二か所のうち一か所について遺構面の強化処置を行い、上部に覆屋を建設しており、今後、強化処置した被災遺構を公開する予定である」とした。
なお、当該遺構については、正殿再建工事の進捗に合わせて2024年8月に覆砂を除去し、現在は遺構の乾湿状況把握を目的に経過観察を行っている(写真1,2,3,4)。今後も引き続き経過観察を進めつつ、劣化等が生じた場合は強化処理を適宜実施する等、2026年の正殿再建時に当該遺構が適切に公開できるよう、必要な措置を講じる。




2. 令和復元
復元は、2019年12月11日の首里城復元のための関係閣僚会議にて決定された、以下の通りの「首里城復元に向けた基本的な方針」[1]に基づき進められている(以下、令和復元)。
(1)首里城の今般の復元に向け、詳細な時代考証に基づく前回復元時の基本的な考え方を踏襲して首里城を復元していくこととする。すなわち、首里城正殿について、1712年に再建され、1925年に国宝指定されたものに復元することを原則とする。
(2)その上で、前回復元後に確認された資料や材料調達の状況の変化等を反映するとともに、今般の火災を踏まえた防火対策の強化等を行う。
(3)前回の復元計画にできる限り沿って復元できるよう、政府一丸となって木材や漆などの資材調達に取り組むとともに、沖縄独特の赤瓦の製造や施工等について、前回復元時から沖縄県内に蓄積、継承されている伝統技術を活用するための支援を行う。
(4)これまで復元に携わってきた沖縄の有識者の方を含めた技術的な検討の場を内閣府沖縄総合事務局に設け、国土交通省等の関係省庁と連携しつつ、沖縄県民の意見を十分に反映できるよう沖縄県の参画を得ながら検討を進める。
(5)首里城跡の世界遺産登録に悪影響が及ばないよう、政府として、引き続き、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)と緊密に連携しながら進める。
この基本方針のもと、首里城復元に向けた技術検討委員会を設置するとともに、復元に向けた個別課題に対応するため、防災(主な検討項目:建築物の防火対策など)、木材・瓦類(同左:木材の調達・木工事、瓦類の製作・施工など)、彩色・彫刻(同左:彩色・塗装工事、彫刻の製作・施工など)の3つのワーキンググループ(WG)会議を設置し、それら議事次第・資料・議事録などをWEB上にて公開している[2]。
なお、正殿の復元工事は、2022年11月に着工し、2026年までに竣工する予定である。工事は、地元住民が復旧作業に参加するボランティア活動が実施され、伝統技術の人材育成についての検討も行われた。
その後、人材育成に関連して、2022年11月に内閣府沖縄総合事務局・沖縄県・一般財団法人沖縄美ら島財団・沖縄県立芸術大学の4者で「首里城復元における技術継承・人材育成に係る連携協定」を締結した。4者は同協定を踏まえ、連携して首里城で使用される様々な伝統技術の継承・人材育成に係る取組を実施しており、具体的には若手人材へのOJTを通じた指導のほか、講義や見学等の機会を積極的に設けることで、将来に向けた技術者の確保を目指している。
3. 世界遺産センター・イコモス・イクロムによるリアクティブモニタリング[3]
第44回世界遺産会議(2022年)にて要請されたリアクティブモニタリングミッションは、火災による被害と実施予定の復元工事を評価し、物件の保全状況に関するその他の側面を調査することを目的とした。2023年6月13-14日、Ms.Himalchuli Gurung(世界遺産センター)、Ms.Catherine Forbes(イコモス)、Mr.Rohit Jigyasu(イクロム)が首里城を視察し、報告書をまとめている。
報告書で推奨された点は、以下の通りである。
・首里城とそのレプリカ建造物の復興は、計画・文書通り継続されるべきである。
・レプリカ建造物と敷地に対し提案された防火対策は、文書とおりに実施すべきである。
・同様の対策は、首里城敷地内の他の建造物にも拡大されるべきである。
・今回の火災からの教訓は、首里城と世界遺産を構成する他の敷地に対する災害リスク管理計画の更新で対処されるべきである。
・次回災害リスク管理計画を更新する際は、火災や地震だけでなく、台風、長雨、盗難、破壊行為など、一般的な災害と影響の大きい災害の両方に対応するマルチハザードアプローチを検討し、採用すべきである。また、複数の災害が同時に発生した場合の影響や、ある災害が引き金となって別の災害が発生し、さまざまな結果をもたらすような連鎖災害についても考慮すべきである。
・火災リスクを含む資産のリスク管理に、地域住民の参加を検討すべきである。
・首里城の災害リスク管理計画(DRMP)の概要を英語で作成すべきである。災害リスク管理計画は、資産に影響を及ぼす、影響の大きい、一般的な脅威/ハザードを特定し、災害前、災害中、災害後の対策を含め、脅威/ハザードに対処または軽減するための対策を概説しなければならない。
・世界遺産を構成する9つの構成部分すべてについて、OUV声明に基づき、OUVの属性の特定と記述、OUVを伝える方法(重要な情報源は何か)について、さらなる理解促進を行うこと。
上記のうち、特に指摘事項の多かった防火・防災対策について、沖縄県は「首里城火災に係る再発防止検討委員会」による提言も踏まえ、「首里城火災に係る再発防止策(基本的な方向性)」に基づく具体的な取組を進めていくことを目的として、「首里城公園管理体制構築検討委員会」を設置した。同会では首里城公園の管理体制構築に加えて、防災センター機能の再編、防災・防火設備等の運用体制の強化、管理運営に関する制度の活用方法の見直しを主な検討課題として、2022年度から現在まで議論を進めている。
4. まとめ
現在、沖縄県教育委員会は「首里城復元に向けた技術検討委員会」に協力委員として参加するとともに、文化財保護法に基づく現状変更等の審査やそれに伴う現地立会、被災遺構の適切な保護等を進めている。今後も、2026年に再建予定の正殿だけでなく、火災で焼失した全ての復元建物の再建に加えて、これらの防火・防災対策をはじめとする適切な保存管理が図られるよう、引き続き関係機関と連携しながら、各種の取組に協力していきたいと考えている。
(沖縄県教育庁文化財課記念物班 班長)
[1] https://www8.cao.go.jp/okinawa/5/houshin.pdf (2025.3.3閲覧)
[2] https://www.ogb.go.jp/kaiken/matidukuri/syurijou_hukugen_iinkai (2025.3.3閲覧)