国際シンポジウム「絹の歴史と⽂化を未来に紡ぐ ヘリテージ・エコシステムに向けて:遺産、地域、持続的発展」に参加して


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国際シンポジウム「絹の歴史と⽂化を未来に紡ぐ ヘリテージ・エコシステムに向けて:遺産、地域、持続的発展」に参加して

Report on the International Symposium "Further Evolution of Authenticity through the Lens of Heritage Ecosystems: Heritage, Communities, and Sustainable Development"

八並 廉 Ren YATSUNAMI

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2025年1月10-11日、群馬音楽センターにて開催された国際シンポジウム「絹の歴史と⽂化を未来に紡ぐ ヘリテージ・エコシステムに向けて:遺産、地域、持続的発展」に参加した。本シンポジウムは、「富岡製⽷場と絹産業遺産群」の世界遺産登録10周年を記念し、また、「オーセンティシティに関する奈良⽂書」採択30年を記念する意義があり、その成果として「ヘリテージ・エコシステムに関する群馬宣言」が採択された。

私は、本シンポジウムにおいてグループ討議で口頭発表する機会を得たため、その立場から気づいた点をこの場を借りて共有したい。本シンポジウムにおいては、全員が出席する全体セッション(ゲストスピーカーの講演、事例発表、全体討議等)の他、少人数グループに分かれて報告・議論を行うグループ討議や、ポスタープレゼンテーション等の時間も設けられており、これらの多様な機会を通じて、来場者間の議論やネットワーキングが大いに促進されていた印象を持った。

本シンポジウムにおいては4つのサブ・テーマが設けられていた。すなわち、「近現代建造物と産業遺産の保存と整備」、「ヘリテージ・エコシステムの仕組みと制度」、「ヘリテージ・コミュニティの形成と役割」、「テクノロジーと遺産の未来」の4テーマである。これら4つのテーマに応募があった報告案は、学術委員会による査読を経て、①全体セッションにおいて報告されるべきものとして選ばれた事例発表、②グループ討議における口頭発表、③ポスタープレゼンテーションとに分けられた。これらのうち②の口頭発表のためのグループ分けについては、各テーマ別にセッションを設ける方法ではなく、グループA~Dのそれぞれにおいて上記のすべてのテーマからの報告者が参加するという方法が採られた。例えば、私の場合は、グループBに属しており、そこでサブ・テーマ「テクノロジーと遺産の未来」の下での報告を行ったが、同グループに参加していた他の報告者は別のサブ・テーマの下での発表を通じてヘリテージ・エコシステムの検討にアプローチされていた。また、各グループにおいては、共同議長であるアニメーターよりディスカッションのための問いが提示されたり、全体セッションで御講演された方々もディスカッサントとして参加されたりする工夫が重ねられたことで、多角的な議論が展開されながらも、各参加者がヘリテージ・エコシステムの主題を常に尊重して発言されていた様子が印象に残っている。

このようなグループ討議の組み立て方は、テーマ横断的な議論を重視する目的を明確に打ち出すもので、その目的に対して実際に効果を発揮していたように思う。例えば、自分が参加していた当日のグループ討議(グループB)を思い返せば、議論の過程で、ヘリテージ・エコシステムが、国家財産である文化遺産の課題を検討する上でも、私的所有の文化遺産の課題を検討する上でも有用なアプローチであることが、参加者間で議論・確認された場面が記憶に残っている。その契機のひとつは、タイ王国が国家財産として指定する遺産の管理にあたって住民等のステークホルダーの活動を十分尊重できているかを問うChitsanupong Rujirotvarangkul氏とWaraporn Ruangsri氏による報告であった(報告題目:「『国家財産』と『オーセンティシティ』:1960年代から2000年代までのタイにおける遺産管理の概念」)。これと対比されて興味深かったのが、私的所有の文化遺産が抱える課題についてヘリテージ・エコシステムの考え方から検討を試みるLojain Alyamani氏とSara AlRabiah氏による報告であった(報告題目「オーセンティシティとサウジアラビアの都市遺産の私的所有に関する法的枠組み:持続可能なヘリテージ・エコシステムへの道」)。なお、前者(Rujirotvarangkul氏らによる報告)は「ヘリテージ・エコシステムの仕組みと制度」のサブ・テーマの下で応募されたものであり、他方で、後者(Alyamani氏らによる報告)は「近現代建造物と産業遺産の保存と整備」のサブ・テーマの下で応募されたものであった。これらの報告が同じグループで共有されることで、ヘリテージ・エコシステムの有用性に関する議論の展開に繋がったのは、テーマ横断的な議論の促進を企図する本シンポジウムの構成が活きた場面のひとつであったように感じた次第である。

なお、本シンポジウムの後には、会議記録の公刊や関連テーマの下での研究会等、フォローアップ活動が計画されている(例えば、2025年3月18日開催の『「ヘリテージ・エコシステム」に関する研究会:「富岡製糸場と絹産業遺産群」世界遺産登録10周年記念シンポジウムのその先へ』等)。ヘリテージ・エコシステムについて、今後の展開にも注目しながら、引き続き検討していきたい。