巻頭言(2025年秋号)
巻頭言(2025年秋号)
Foreword (Autumn 2025)
岡田 保良 Yasuyoshi OKADA(日本イコモス国内委員会委員長)

いつになく猛暑が収まらない今年の夏。にもかかわらず大阪関西万博は大賑わいだと伝えられています。開催直前の批判の声への共感を忘れはしないものの、最近になって一度は大屋根リングを体験したいとの思いが高まるのですが、残念ながら実現の機会は巡ってこないようです。関西ではもう一つ、今年初めにユネスコに推薦された飛鳥・藤原の遺跡群が世界遺産登録を果たせるのか、ICOMOS本部が派遣した調査官の現地視察も完了し、私たちは注目しているところです(写真)。

今年の4月、ICOMOS本部ではそのウェブサイトのデザインを一新させ、世界文化遺産候補の審査過程を今までよりも詳しく紹介しています。とくにWorld Heritage Panelの役割と2024-25年のパネル構成について詳しく記載していますので、従来明かされてはいなかった審査の仕組みを、ある程度はかり知ることが可能となりました。来年韓国での開催が予定されている世界遺産委員会に提案されるICOMOSによる最終評価は、ここで用意されることになります。
つづいて推薦が期待されている彦根城、あるいは平泉の拡張については、今年は見送られるという報道が、この8月にありました。今のところ暫定リストには他に有力な候補はなく、その見直しを期待する各地と文化庁との協議をいっそう早めていただきたいものです。
新しくなったICOMOSウェブサイトのカバーページには、来月に迫ったネパール、ルンビニでの年次総会のタグ「AGA 2025」も用意されています。そこに公表されている日程によると、10月11日のビューロー会議に始まり、最終の19日にはカトマンズに移動してのエクスカーションが用意されています。字義どおりの総会は14日の午後のみで、その前には地域会議や個別の学術委員会、諮問委員会、総会後は主テーマをPerceptions of Heritage and Resilienceとするシンポジウムに充てられます。詳しくはサイトのコンテンツ、あるいは本部から送られるInfo記事をご参照ください。予定されている議事内容もWorking Documentsとして現時点で多くが公開されています。
ただこの9月に入り、若者を中心とする激しい抗議デモが勃発したとのニュースが気になるところです。現地参加を予定されている会員の方がたには躊躇されているかもしれませんが、問題とされたSNSの遮断は撤回され、社会秩序も概ね回復。国内外の航空便も再開しているそうです。総会を主催するネパール・イコモスからは予定通りに準備を進める旨のメールが、参加登録された会員には届いています。渡航の断念を余儀なくされる事態に至らないことを祈るばかりです。