国際会議での伊藤延男先生と木の委員会IIWC


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国際会議での伊藤延男先生と木の委員会IIWC

Dr. Nobuo Ito and the ICOMOS International Wood Committee during international conferences

輿 恵理香 Erika KOSHI

伊藤先生

伊藤延男先生がご逝去されて10回目の夏が訪れた。私が伊藤先生と同行した木の委員会IIWC(ICOMOS International Wood Committee)の国際会議は夏から秋にかけての開催が多く、この時季になると伊藤先生の優しい笑顔を思い出す。足の具合が良くないため国際会議へ介添として一緒について来てほしいと伊藤先生から連絡をいただき、ご一緒させていただいたいくつかの会議を振り返ってみたい。

2012年9月、メキシコ第二の都市グアダラハラ(Guadalajara)で第18回IIWC年次会議が開催された。ここでは、通常の会議のあと、役員がprincipleについて数時間にわたり議論していた。伊藤先生は各国代表の意見に耳を傾けながら、今後に向けての方向性を示されていた。会議後の視察では、熱心に建造物を見ながら、首から掛けられたカメラで撮影されたり、その地の食を楽しまれながら昔の事などを語られたりしていた。

2013年9月、第19回IIWC年次会議が兵庫県姫路市で開催され、「技術的発展と「歴史的木造建造物保存のための原則(1999)」の更新」についての議論があった。伊藤先生は、IIWCの名誉委員として各国からの参加者と議論された。開催に際しての準備では、視察場所の選定や、視察場所で来日外国人会員への厚いおもてなしを忘れなかった。建造物を見ながら抹茶で一服、どの人も困らないような建造物の前での解説など、日本人としての細やかな心遣いと国際人としての振る舞い方を目の当たりにした。

2013年11月、イタリアのコゼンツァ(Cosenza)でH.EaR.T.2013(Historic Earthquake-Resistant Timber Frames in the Mediterranean Area 2013)が開催され、研究発表された。会議後に、いくつかの古い木造の建物を見学するため、海岸線を走った。現場では、現地案内人に絵を描いて質問するなど、積極的にその建物を知ろうとなさっていた。その後、ローマ市内を周った。スペイン広場、トレヴィの泉、コロッセオのほか、ボルゲーゼ美術館では、一度も休むことなく各部屋を熱心に観覧され、陽が落ちる前の明るい時間帯に入館し、帰りは夜だった。さらに、バチカン市国では、サン・ピエトロ大聖堂でローマ教皇のお出ましと重なり、群衆とともに立ったまま2時間程度待っていた。そして、真実の口に一緒に笑って手を入れたことは忘れられない懐かしい思い出である。食事は、連日、ご一緒させていただいた。そこでは、いつも、ゆっくりと丁寧な口調で、時間をかけてお話しされていたことを鮮明に覚えている。今、思い起こせば、これは若い人たちに何かを伝えたい、言い残したいという強いお気持ちがあったからではないかと思わざるを得ない。

思えば、私が伊藤先生とご一緒したのは、お亡くなりになる前の数年間であり、長い建築史家人生の中の最後の少しの部分である。しかし、伊藤先生の経験の重みを直接、伺い学んだ最後の“教え子”のひとりとして、伊藤先生のひと言ひと言が胸に落ち、大切な時間を過ごさせていただくことができたことを心から感謝したい。

その上で、IIWCの目的にある「建造物、構造物における木の保存の分野における国際的協力を増進し、並びにこの領域においてのイコモスの発展につき助言を行う」を進展させることに尽力したいという気持ちを新たにしたとともに、伊藤先生のまっすぐな研究姿勢に触れられない現在、それは惜しまれるが、バトンが渡されたと理解し、研鑽を積むことを覚えておきたい。

今、伊藤先生と同行した往時の写真を見ながら筆を執っている。多くの業績は言うまでもなく、さらに物静かなたたずまいの中の誠実なお人柄に対して敬服の念に堪えない。

IIWCは伊藤先生の国際的な活動の中心であった。2006年ごろに伊藤先生がまとめられた記録をもとに、現在のIIWC副委員長スヘイラ(Süheyla)氏(トルコ)に確認をとって整理した。その設立は1975年で、第1回の会議から今年の会議までの開催国と開催年は以下である。

設立(1975)、スウェーデン(1977)、フランス(1979)、スイス(1980)、カナダ(1982)、ノルウェー(1983)、ブルガリア(1985)、ロシア(1988)、ネパール(1992)、日本(1994)、イギリス(1996)、中国 (1998)、ロシア(2002)、ブラジル(2003)、トルコ(2006)、イタリア(2007)、カナダ(2008)、メキシコ(2012)、日本(2013)、スウェーデン(2016)、インド(2017)、イギリス(2018)、スペイン(2019)、オンライン開催(2020)、スウェーデン(2021)、チリ(2022)、オーストラリア(2023)、韓国(2024)、トルコ(2025)

(東北大学)

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