伊藤延男資料のアーカイビング


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伊藤延男資料のアーカイビング

Archiving Nobuo Ito’s Materials

金井 健 Ken KANAI / 佐藤 桂 Katsura SATO

伊藤延男資料の「イコモス木の委員会関係」資料
写真1 伊藤延男資料の「イコモス木の委員会関係」資料(東京文化財研究所所蔵)

イコモス木の委員会(IIWC)の副委員長を務めていた伊藤延男先生がご逝去されてから、まもなく10年が経過しようとしている。先生が所蔵されていた膨大な数の資料は、その一部が2018年に武蔵野大学に寄贈され、別の一部が2021年に東京文化財研究所に寄贈された。本稿では、同資料のそれぞれの機関でのアーカイビングの現状について報告する。以下、東京文化財研究所所蔵資料について金井が、武蔵野大学所蔵資料について佐藤が記す。

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東京文化財研究所が所蔵する伊藤延男氏資料は、2021年に同家から寄贈されたもので、同氏が携わった文化財保護行政業務を通じて収集され、自宅に保管されてきたものが中心を占めている。資料総数2,186点(伊藤家保管時の封筒等のまとまりを1点として整理)のうち、375点が文化財保護の国際関係に関するものであり、そのうちイコモス木の委員会に関する資料は2006年から2013年にかけてのものを中心に、20点余りを確認することができる(写真1)。これらは、何より「イコモス木の委員会」における伊藤氏の活動と貢献を実証的に示す資料として貴重である。加えて、同時期に伊藤氏が注力していた「文化遺産を未来につなぐ森づくりのための有識者会議」の活動に関する資料などとあわせて、20世紀末から21世紀初頭にかけてのわが国の文化遺産国際協力の展開とともに活発になったわが国の木造建築遺産の保存を再評価する国内外の動向を裏付ける一次資料群を構成しており、今後の文化政策学や文化遺産学における制度研究に活用されることが期待される。

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武蔵野大学が所蔵する伊藤延男氏資料は、段ボール箱約700箱、総数約30,000点という膨大なものであるが、その大半は図書や雑誌(約24,000点)であり、このほかに報告書(約2,500点)、文書(約3,000点)等がある。現在は公益社団法人松井角平記念財団の研究助成を受けながら資料整理とリスト作成を進めており、その全体像を把握するとともに、個別の資料の読み込みも行っている。いずれもまとまった状態ではないが、文書にはイコモス関連の会議録や研究会資料のほか、木の保存UNESCOシンポジウム資料、国際木造文化財保存現地研究会報告、NPO木造建築研究フォラム関連資料が含まれ、さらに木材力学、木造架構、年輪年代学、保存科学、修理技術といった科学的アプローチによる諸資料や林業、環境といったものまであり、幅広く「木」に向き合われていたことが窺われる。ただし、あらゆる資料が雑多に箱詰めされた状態であったため、整理にはまだしばらく時間がかかりそうである(写真2、3)。

写真2 作業開始時の伊藤延男資料(武蔵野大学所蔵)

写真3 外国雑誌等も多く含まれる(武蔵野大学所蔵)