イコモス木の国際委員会の近年の活動について


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イコモス木の国際委員会の近年の活動について

Recent Activities of the ICOMOS International Wood Committee

マルティネス アレハンドロ MARTINEZ de ARBULO Alejandro

2018年9月にイギリス・ヨークで開催された木の国際委員会シンポジウムの参加者
2018年9月にイギリス・ヨークで開催された木の国際委員会シンポジウムの参加者

近年における木の国際委員会の最も肝心な活動は、木造建築遺産保存のための憲章の改訂作業である。Knut Einar Larsenが中心になって作成された1999年の憲章の改訂に向けた動きは2012年から歩み出し、幾度も議論が重ねられた結果、最終版が『Principles for the Conservation of Wooden Built Heritage』というタイトルで2017年のイコモス総会で採択された。1999年の憲章と比較すると、2017年の憲章の内容はより具体的・実質的なものになったといえる。また、耐久性の長い建造物のみならず、仮設建築や民俗建築の文化的意義を認識することの必要性が強調された。

憲章の改訂以降も、木の国際委員会が多様な活動を繰り広げてきた。まず、本委員会主催の国際シンポジウムは、2018年(イギリス・ヨーク)、2019年(エチオピア・アディスアベバおよびスペイン・ビルバオの2回)、2022年(チリ・チロエ)、2023年(オーストラリア・シドニー)、2024年(韓国・ソール)、2025年(トルコ・サムスン)で開催された。1975年に本委員会が設立されて以降、国際シンポジウムの開催回数は合計27回に至った。当初はおおよそ2年に一度の開催が慣例となっていたが、特にコロナ禍が収束して以降、毎年開催される傾向にあり、2026年および2027年にも開催が予定されている。近年のシンポジウムでは、伝統的な技術の継承や木造建築遺産の防災・回復力(resilience)などの課題が注目を集めている。

コロナ禍のため、対面の国際シンポジウムが開催されなかった2021年には、木造建築遺産保存における「最小限の介入」の定義をテーマとして、複数回にわたってオンライン研究会が開催され、日本を含む各国から発表が行われた。

その他にも、各国の国内木の委員会によって数多くの研究会や講演会が開催されている。特にイギリス国内木の委員会が定期的にオンライン講演会ICOMOS-UK Wood Forum Online Talksを開催しており、YouTubeでその動画が公開されている(https://www.youtube.com/@icomos-ukwoodforumonlineta7537/videos)。さらに、メキシコ国内木の委員会は2018年に木造仮説建築WGを設立し、以降、6回の国際オンライン研究会を開催してきた。

また、イコモスでは現在「火災による損失および被害から文化遺産を保護するための原則」(Guiding Principles for Protecting our Cultural Heritage from Damage and Loss Caused by Fire)の草案が作成されているが、木の国際委員会のメンバーが本活動に積極的にかかわっている。

特に1990年代以降、日本は木の国際委員会において中心的な役割を果たしてきた。今後も木造建築遺産保存に関して日本で培った長い経験と豊富な知見が、本委員会を通して発信され、国際的に活かされることが期待される。

(京都工芸繊維大学)