研究会報告EP(若手専門家)委員会 EPのためのICOMOSガイドブック 第1回「ICOMOSの成り立ちと世界遺産の思想」
研究会報告EP(若手専門家)委員会 EPのためのICOMOSガイドブック 第1回「ICOMOSの成り立ちと世界遺産の思想」
ICOMOS Guidebook for EPs Vol. 1: The Origins of ICOMOS and the introduction to the World Cultural Heritage
青山 道乃 Michino AOYAMA

EP(若手専門家)委員会(以下、EP委員会)は「EPのためのICOMOSガイドブック」のイベントとして、2025年4月18日にウェビナーを開催しました。進行はEP委員会の宮下貴裕・青山道乃が行い、メンターの西村幸夫先生(國學院大學教授)にご講演を頂きました。

1.研究会概要
この研究会はICOMOSの歴史を知る先生方への聞き取りを通して文化遺産の基本を学び、EP委員が対象とする若手やこれから文化遺産を志そうとする方(以下、EP)へのガイドブックとして蓄積・公開することを目的としています。
第1回はテーマを「ICOMOSの成り立ちと世界遺産の思想」に設定して書籍『文化遺産の思想』(東京大学出版会、2017年)を手掛かりに基本知識の勉強会および企画を行い、世界遺産の日(International Day for Monuments and Sites)である4月18日に合わせてウェビナーを開催しました。EP委員だけでなくICOMOS会員を通じて非会員の方にも広報を行い、総勢70名を超える方にご視聴いただきました。今後は第2回以降の企画を進め聞き取りを続け、蓄積したものをもとにガイドブックとしての記録作成を行う予定です。
今回のウェビナー開催にあたってはご登壇いただいた西村先生、企画のご助言をいただいたメンターの先生を含むEP委員会の皆様、事務局、ご参加いただいた皆様・広報をしていただいた皆様には心から感謝を申し上げます。今後の活動についても、ぜひご支援を賜れますと幸いです。
2.講演内容
講演ではICOMOSの発足から西村先生が前線を担当された2018年までの50年間を中心に、文化遺産保護の通史と基本概念をお話しいただきました。また、総会でのCharterの議論と取りまとめのご苦労など、ICOMOSの国際的な活動を西村先生の体験を通して詳細にうかがうことができました。
これらを通してEPにとって文化遺産保護の基本的な情報を学ぶだけではなく、日本の文化遺産保護の位置づけ、特徴およびICOMOSで果たした役割を知り、国際的に文化遺産保護の活動をする意義を考える機会となりました。
3.ディスカッション
ディスカッションでは講演に対する質問のほか、EPが文化遺産に関わる上での心得や学び方についても示唆をいただくことができました。特に、文化遺産保護における知識の世代間の伝達や各遺産での本質的価値に対する議論から学ぶことの重要性を事例を交えてご指摘いただきました。
例えば、ICOMOSが国の代表ではなく専門家集団であるゆえに、社会的な問題に対してすぐに議論ができる団体であり、積極的にCharterのとりまとめに取り組んできたことの功績について議論をしました。西村先生には講演に加え2005年の遺産構造物、遺産、地域の周辺環境に関する西安宣言(Xi'an Declaration on the Setting of Heritage Structures, Sites and Areas)に至る周辺環境(SETTING)の議論について詳細をお聞きすることができました。
また、歴史的なものを手がかりに現代的なものを考えることができ、近代の世界遺産や文化財についても世界遺産の概念から学ぶことができることを議論しました。各世界遺産が登録されるまでの議論は世界遺産委員会にて公開されているため、それぞれの顕著な普遍的価値(OUV)の記述を中心に議論から学ぶとよいとご指摘いただきました。