2025 ICOMOS アジア・太平洋地域会議 in ソウル


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2025 ICOMOS アジア・太平洋地域会議 in ソウル

2025 ICOMOS Asia-Pacific Regional Meeting in Seoul

岡田 保良 Yasuyoshi OKADA

2日目、「気候変動と災害への対応」のセッション(左端に大窪氏)
写真1 2日目「気候変動と災害への対応」のセッション(左端に大窪氏)

本年4月、韓国ソウルにおいて、アジア太平洋諸国のイコモス代表が集う地域会議が、16日から3日間にわたり開催された。かつては稀に中国や韓国が招致して開催されることはあったものの、このところは年に3〜4回のペースでこの地域会議は開催されるようになった。少し経緯をたどると、2020年の年次大会での諮問委員会を前にして、どちらかといえば本部主導での呼びかけに始まり、オーストラリア、ネパール、フィリピン、タイ、中国、そして日本イコモスなどが直ちに応じて初回が設定された。すでにコロナウィルスのパンデミック期に入っていたので、もっぱらリモートでの開催となっていた。パンデミックも終息し、昨年秋のリモート会議で、韓国イコモスからこのソウル会議が提案された。

各国の代表がみな招待客扱いだっただけでも異例だが、ほかにもテレサ会長、河野前会長、大窪健之氏を含むアジア地域のボードメンバーなど招待者だけでも40数名、全参加者は100数十名に上ると伺った。ホスト役はもちろん韓国イコモスで、共催者としてKorean Heritage Service(韓国国家遺産庁)、International Centre for Interpretation and Presentation of World Heritage Sites (UNESCO-WHIPIC) のロゴがスクリーンに並んだ。後者については未だ日本語の定訳を聞かない。厳密にいうと、このイコモス地域会議には、3日目午前の枠にイコモス国際学術委員会の一つICIPのセッションが組まれていて、そこには主催韓国外務省、スポンサーにUNESCOとあり、オーガナイザーとして、韓国イコモス、ICOMOS-ICIP、UNESCO-WHIPICの三者が並んでいた。そして3日間を通してKonkuk(建国)大学が会場を提供された。この会議の仕切り役でもあった現韓国イコモス会長Choi Jaeheon氏が教鞭をとる大学と伺った。

まず2日間の地域会議テーマは “Challenges and Collaborative Responses facing Heritage in the Asia-Pacific Region”。遺産をめぐる困難な状況に共同して立ち向かおう、という趣旨と解した。各セッションの構成は以下の通り。

  • Plenary I : World Heritage Impact Assessment - Systems and Case Studies
  • Thematic Session 1 : Heritage Management, Archaeology, Community Consultation, and Sustainable Development
  • Plenary II: World Heritage Interpretation - Principles and Case Studies
  • Thematic Session 2 : Cultural Tourism, Fortification and Military Heritage, and Indigenous Heritage (以上1日目)
  • Plenary III: Climate Change and Disaster Response
  • Thematic Session 3 : ISC Presentations
  • Plenary IV: Comprehensive Approach
  • Thematic Session 4 : Defining the Asia-Pacific Flavor of Heritage, Training & Documentation (以上2日目)

上記Plenary IIIには、大窪氏が登壇し、議論のリード役としてClimate Change and Traditional Knowledgefor Disaster Mitigation of Flood and Storm in Japanese Architectures and Historic Citiesと題し、日本各地で災害に立ち向かう人々の伝統的な知恵と工夫を紹介された(写真1)。またThematic Session 4では河野氏が登壇。The Heritage Ecosystem: A New Guiding Principle for Training and beyondとのタイトルの下、今年初めの群馬宣言に盛られた主張を改めて紹介された。さらに、これらのプログラムの番外として、2日目のランチタイムに4つのタスクチームに分かれて意見交換する機会が設けられ、筆者はStriving for Excellence in HIAのチームに、インドネシアやオーストラリア等と共に加わって日本イコモスのHIAへの関わりについて紹介した。ただ他の国々のイコモスはどれほどもHIAの実践に関わってはいないという印象を受けた。

3日目はICIPが仕切る2025 International Seminar on Heritage Interpretationで、そのテーマはPrinciples for Heritage Interpretation and their Implementation for the Conflict Resolution and Peacebuilding。紛争解決と平和構築に向けた遺産の解釈とその実践の原則を探ろうということであろうか。ナイジェリア、クロアチア、韓国、オーストラリアの事例を材料として、奈良文書におけるアトリビュート、不可視のアスペクト、コミュニティの関わりなど、テレサ会長が議論をまとめ締めくくった。

この日の午後は3つの班に分かれての見学ツアーに充てられた。第1グループはソウル市内の主要な世界遺産。第2は南大門を含んでソウル市北側、漢陽都城遺構が巡るナクサン公園。次なる世界遺産登録を目指している。遺産庁がこの会議を支援する理由がそこにはあるのかもしれない。第3の目的地は、かつて日本統治時代に建設された監獄の建物群。今は「西大門(ソデムン)刑務所歴史館」として内外の観光客を呼び込んでいる(写真2)。大窪氏と筆者はここを見学地に選んだ。韓国イコモス会長Choi Jaeheon氏直々、丁寧に案内していただいた。韓国側としてはぜひとも日本からの来訪者に紹介したいという期待があるようにも思えた。戦後も長く使用され、1988年に文化財指定、かなりの部分は解体されたが98年に博物館施設として公開したという。これが反日感情を煽る材料としてではなく、日韓相互理解の増進に役立てていきたいものである。今回の会議参加で最大の収穫だったかもしれない。

写真2 3日目 見学ツアーで訪ねた「ソデムン刑務所歴史館(旧西大門監獄)」

(日本イコモス国内委員長)