特集にあたって:あらためてイコモス総会とは 〜これまでのイコモス総会を振り返る〜


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特集にあたって:あらためてイコモス総会とは 〜これまでのイコモス総会を振り返る〜

Looking Back on Past ICOMOS General Assemblies

森 朋子 Tomoko MORI(本号特集担当)

2025冬号

本号の特集は、2025年10月にネパール・ルンビニで開催されたイコモス年次総会です。特集を担当する筆者自身の総会参加が2回目ということ、また広報委員会内部でも総会とは何なのかよくわからないということで、特集にあたって、そもそもイコモス総会とは何か、これまでの総会を過去のインフォメーション誌から振り返ってみたいと思います。

なお今総会には、岡田委員長、大窪本部執行委員、河野名誉会長、淺田なつみ氏、岡崎瑠美氏、宮﨑彩氏、李敏氏、森朋子が参加しました。特集では、役職者からの各報告に加え、シンポジウムで発表された会員からの報告もあり、広く総会や関連イベントなどの雰囲気をお伝えできる構成となりました。

イコモス年次総会への歓迎

イコモス総会とは

イコモスの誕生は、1965年6月22日の設立総会(第1回)であり、そこで定款や手続規則が採択されて活動が開始した。本年は、イコモス設立60周年にあたる。

定款によると、イコモスの法定機関は、総会、理事会及びその事務局、諮問委員会及びその科学評議会、国内委員会、国際科学委員会(ISC)、国際事務局であり、総会はイコモスの最高意思決定機関に位置付けられ、すべてのイコモス会員が出席権を有している。投票権を行使できるのは、国内委員会の規模により、前年の12月31日までに会費の納入が確認された会員数に基づき以下の通り決定される[1]。

カテゴリー1(会員数20名未満):5票

カテゴリー2(会員数20名以上49名未満):10票

カテゴリー3(会員数50名以上99名未満):15票

カテゴリー4(会員数100名以上):20票

493名(2024年12月31日時点)の個人会員等で構成される日本イコモス国内委員会は、カテゴリー4に属し、20票の投票権を持つ。

総会では、イコモスが準拠するフランス法上必要な会計報告案と予算案承認、規約改正などの決議、3年ごとの役員(20名)選挙といったいわゆる儀式的な手続きが執り行われる。3年ごとの改選時に開催される総会は、2023年オーストラリア・シドニーで第21回を数え、来年マレーシアにて第22回総会が予定されている。今回のネパール・ルンビニ総会は、改選を伴わない年次総会に位置づけられる。これは、イコモスが準拠するフランス法によるもので、2015年以降毎年開催され、2015年の初年次総会は日本・福岡で開催された。

総会と合わせた学術シンポジウムは、広く発表論文を募集して開催され、これによって総会が学問的な知識の交流の場にもなっている。このスタイルの定着にも背景がある。第9回総会案(スイス・ローザンヌ、1990年10月)の議論のなか、シンポジウムに会員以外も呼ぶべきか閉鎖的とすべきかが議論され、なるべくオープンにすることとした[2]という。また、学術シンポジウムは大会ごとにテーマが設定され、閉会時に分科会報告がなされるのも特徴である。

今総会の学術シンポジウムは、イコモスの3か年学術計画 2024-2027 Disaster Resilient Heritage: Preparedness, Response and Recoveryに関連した3つのサブテーマを掲げて行われ、50カ国以上から約300名の参加者が集った[3]。シンポジウムの模様は、会員からの報告をご覧いただきたい。

これまでのイコモス総会を振り返る

日本イコモス国内委員会のインフォメーション誌は、総会の概要とともに参加した会員からの率直な感想も知ることができる絶好の資料である。今回はHPに掲載された第2期第1号(1989年10月16日発行)から最新号まで、参加者からの総会報告に着目し、これまでのイコモス総会を振り返ってみたい。

これまでの総会を振り返る

最初に報告された総会は、1990年10月にスイス・ローザンヌで開催された第9回総会で、シンポジウムの主題はICOMOS, A Quarter Century: Achievements and Future Prospectsであった。坪井清足氏(国内委員会委員長)、伊藤延男氏(本部執行委員)、稲垣栄三氏、陣内秀信氏の4名が参加している。坪井委員長は、日本も含め建築・都市修景関係の活動に最も重点が置かれてきたが、今回の総会で考古遺跡保存の問題が取り上げられた点を報告している。初参加の稲垣氏からは、イコモス設立25周年を迎え、べニス憲章が浸透する欧米圏での活動が、女性やボランティアなど層の厚い組織によって支えられていることに触れ、日常的な生活のなかに折り込まれたNGOとしての本来の活動をあらためて感じたことが報告されている。陣内氏も、女性の参加が多かった点を挙げ、日本も拡大していく努力が必要だとした。

第10回総会(1993年7月)は、アジアで初めてとなるスリランカ・コロンボにて開催された。坪井清足氏(国内委員会委員長)、伊藤延男氏(本部執行委員)、中村一氏、西村幸夫氏、牛川喜幸氏、上野邦一氏、益田兼房氏、西浦忠輝氏、渡辺定夫氏の9名が参加した。正式発表によると、63カ国330人を数えた大規模な総会となり、この総会で伊藤延男氏が副会長に選出された。シンポジウムの主題は、Archaeological heritage, Cultural Tourism and Conservation Economicsであり、「アジア・オセアニアの遺産」と題する中心に据えられたセッションで発表した初参加の西村氏は、アジアがもつ豊饒な文化遺産を目の当たりに、特にアジア以外から参加した多くの人が、べニス憲章に象徴されるイコモスの遺跡・記念物に対する姿勢が万国共通ではなくなってきていることを実感し、「欧米先進国の文化財にたいする見方を相対化するひとつのおおきな契機となったのではないか」と報告している。

第11回総会(1996年10月)は、ブルガリア・ソフィアにおいて開催された。石井昭氏(国内委員会委員長)、伊藤延男氏(本部執行委員)、足達富士夫氏、大河直躬氏、片方信也氏、坪井清足氏、西浦忠輝氏、西村幸夫氏、森下満氏の9名が参加した。71カ国532人(ユネスコなど含めると541人)が参加し、この総会で西村氏は執行委員に当選した。シンポジウムの主題は、Heritage and Social Changesである。伊藤氏から、シンポジウムでの「オーセンティシティー所産から過程へー」の報告のなかで奈良会議の成果が高く評価され、また自身の論文「アジアおよび日本の文化遺産に関する固有なオーセンティシティ」が引用され、世界の理解と共感を得て文化遺産保存の基礎理論の発展に一つのインパクトを与えたことを喜ぶ報告があった。初参加の大河氏は、発表対象が古代から近世までの個別建築の修復を扱っているものは非常に少なく、多くがバナキュラーな建築の群(集落・町並み・都市)か近代建築の保存・修復・活用を扱っていたことから、保存と修復についての課題と考え方が急速に変わったことを第一の感想に挙げている。

第12回(1999年10月)は、メキシコの4都市(メキシコシティ、グァナファト、モレリア、グァダラハラ)で開催された。石井昭氏(国内委員会委員長)、西村幸夫氏(本部執行委員)、荒木伸介氏、土井崇司氏、伊藤延男氏、大河直躬氏、片方信也氏、河野俊行氏、前野まさる氏、宗田好史氏、杉尾邦江氏の11名が参加した。シンポジウムについて、西村氏は、例えば巡礼路やシルクロードなど文化的ルートや水中考古学、20世紀建築など新たなジャンルに多くの研究者が関心を示して「文化遺産」の概念を拡げる様子を目の当たりにした点を第一に挙げ、一方で3年間のテーマThe Wise Use of Heritageについては、具体的成果をあげられなかった印象を報告している。

第13回(2002年12月)はスペイン・マドリッドで開催され、前野まさる氏(国内委員会委員長)、西村幸夫氏(本部執行委員)、杉尾伸太郎氏、杉尾邦江氏、稲葉信子氏、岸本雅敏氏、大河直躬氏、佐々波秀彦氏、西浦忠輝氏から報告された(日本から出席者数の記述無)。この総会で、西村氏はイコモス副会長に当選した。本総会は、2001年の同時多発テロとアフガン戦争直後の総会でもあった。大河氏は、半世紀近く経過した保存をめぐる社会条件の変化が大きく、開催地もアフリカ・ジンバブエから急遽スペインに変更され、シンポジウムの主題も「無形の価値」からPreservation in a Globalized World -Principles, Practices, Perspectivesに変更されたことも当時の社会を反映してのことであり、さらにシンポジウムの論点があまりにも拡散したことを保存の具体的課題の急速な多様化の反映とした一方で、イコモス自体が中心的な課題を十分に把握できていないことの表れではないか、と問うている。イコモスの社会的役割の変化、学術的なものから世界政治の一端に組み込まれざるを得ない状況、また実りの少ない発表や討議、不合理な役員選挙の実態なども報告された。

第14回(2003年10月)は、初のアフリカ大陸、ジンバブエ・ヴィクトリアフォール開催が実現し、68カ国約200名、日本から前野まさる氏(国内委員会委員長)、西村幸夫氏(本部副会長)、伊藤延男氏、本田智子氏、杉尾邦江氏、渡辺保弘氏の6名が参加した。総会開催前年からイコモスが行なってきた世界文化遺産の代表性(地域や種別のバランスがとれているか検討するもの)に関するレポート原案をもとに討議され、巨大な権力を持っていた文明の遺産が選ばれやすいことと比較し、巨大な権力は存在しなかったものの、ある均衡が永年維持されてきたような文明のありようを評価するような遺産の登録が望まれる、といった議論が世界遺産パネルでされたことを西村氏が報告している。シンポジウムの主題は、Place-Memory-Meaning: Preserving Intangible Values in Monuments and Sitesで、前回大会前より無形文化遺産の主題を見送ったなか、ようやくの実現となった。ユネスコでは、2003年10月に無形文化遺産保護条約を採択している。初参加の本田氏は、「有形遺産と無形遺産はコインの両サイドである」とのユネスコ出席者からの言葉や、アフリカ諸国が力を入れる無形文化遺産にアフリカからの声が大きかったこと、特に人々の記憶によって受け継がれていき、その記憶によって価値・意味を持つ場所と考える無形文化遺産の重要性が強調された点、なかでも「英国植民地時代の歴史も否定するのではなく現実として受け入れる」という、ジンバブエ大統領の開会挨拶が最も印象的だったことを報告している。

第15回(2005年10月)は中国・西安で開催され、75カ国1,000人超の参加者が集まった。この総会で本部執行委員・副会長と3期9年満期退任の西村氏は、伊藤延男氏の名誉会員選出と岡田保良氏の本部執行委員当選も重なり、イコモス史上もっとも盛大かつ成功した総会であったと報告している。日本からは16名の参加があり、岩崎好規氏、杉尾邦江氏、福島綾子氏、大野渉氏、井上敏氏、片方信也氏、山崎正史氏、赤坂信氏、大河直躬氏からの寄稿がある。シンポジウムは、Conserving Monuments and Sites in their Settingsを主題とし、その提案者でもあり都市計画を専門とする西村氏は、単体としての遺跡や記念物のみならず、その置かれた環境にまで配慮すべき旨の主張が正式に謳われた(セッティング<周辺環境>保全に関する西安宣言採択)ことは、特に開発スピードの速いアジアにとって非常に重要な後ろ盾になると強調した。一方では、西安という古都が正反対の方向に進んでいる保全状況を、大河氏が報告した。

第16回(2008年9月)はカナダ・ケベックで開催され、シンポジウムの主題は、Finding the Spirit of the Placeで、日本から7名が発表した(詳細報告なし)。この時期、世界遺産保存・活用・修理・修復の後継者養成の動きが活発になりつつあり、日本国内でも東京芸術大学、筑波大学、立命館大学をはじめ各大学で国内の文化遺産の保存や世界遺産の保存について開講する大学が増えていた。本総会で、坪井清足氏は名誉会員に選ばれた。

第17回(2011年11月)はフランス・パリで開催され、101カ国1,018人の大盛会で、日本から31名が参加した。最終日には、伊藤延男氏にガッゾーラ賞が授与された。ガッゾーラ賞はライフタイム・アチーブメントに対して与えられ、3年ごとの総会でただ一人(あるいは一団体)だけが選ばれる、文化遺産保全の世界のノーベル賞とも形容される賞である。伊藤氏は、1987年第8回総会の関野克氏(1909-2001)の受賞に次ぐ、日本人二人目の受賞である。さらに本総会で、前野まさる氏が名誉会員に、また岡田保良氏の退任のなか河野俊行氏が本部執行委員に選出される。矢野和之氏は、個人の評価とともに日本の文化財保存活動に対する評価、また日本への安心感と期待の結果とし、初参加の山田大隆氏も総会での日本の国際的な位置の高さを感じたことを報告した。シンポジウムは、Heritage, Driver of Developmentを主題に行われた。ウーゴ・ミズコ氏は、伝統的な建設技術を一つの文化として建設方法とその知識全体を継承することで、現代社会が抱える問題の解決に臨むこと、すなわち環境への配慮、就職需要、建造物の周期的な捉え方、新しい技術開発との連携に焦点を当てたことこそが今回の真のテーマであり、「文化遺産」「指定文化財」「伝統的」といった枠組みを超えて地域再生へ向かえるかが鍵を握るとまとめた。一方、保存・活用に「伝統的」な姿勢で取り組む専門家が、自らの「文化財領域」を脱し、他分野との連携を図り、文化遺産を特別扱いしないようになるまでには、まだ時間を要することも指摘する。その他、福島綾子氏、花里利一氏、苅谷勇雅氏からの寄稿があった。

これまでのガッゾーラ賞を振り返る

第18回(2014年11月)はイタリア・フィレンツェで開催され、日本から過去最高の40名ほどの参加があった。本総会にて、河野俊行氏が本部副会長に選出された。2014年は「オーセンティシティに関する奈良文書」採択から20年を記念し、日本がサイドイベントNara+20を主催し、べニス憲章50周年記念パネルディスカッションも行われた。シンポジウムはHeritage and Landscape as Human Valuesを主題とし、矢野和之氏から、5つの分科会で多くの日本人が口頭発表・ポスター発表に参加したことが報告されている。他に山内美奈子氏、國井洋一氏、岩崎好規氏からの寄稿があった。

第19回(2017年12月)はインド・デリーで開催され、河野俊行氏が圧倒的多数の信任を得て、日本初の本部会長に選出された。藤岡麻理子氏は、総会のあらゆる場面で若手の登用が主張されたこと、個別の論点としてSDGs、紛争、復興、人権、自然と文化などがあり、より大きな枠組み、より上位の政策の中で遺産保全を位置付けることの重要性と必要性を改めて顕著に感じられたことを報告している。西村幸夫氏(国内委員会委員長)から、諮問委員会(各国内委員会の代表及び国際学術委員会の代表が集まり、イコモス執行部に対し、その運営に関するアドバイスを行う毎年開催の委員会)にて、メキシコや日本の地震、カリブ海諸国のハリケーン被害など自然災害からの復旧の問題が多く取り上げられたこととアジア太平洋地域会合報告があった。シンポジウムはHeritage and Democracyを主題とし、4つの分科会で発表が行われた。岩崎好規氏、大野渉氏、岡橋純子氏、益田兼房氏、宮﨑彩氏から、総会やシンポジウム、エクスカーションやプレイベントなどの報告があった。

第20回(2020年12月)は新型コロナによるパンデミックのため、オーストラリア・シドニーでの開催予定をオンライン会議に変更して開催され、その前の2020年7月、史上初のオンライン個別要請総会(イコモスが準拠するフランスの特別法によるオンライン総会許可を受けた臨時総会、各国から500人以上が参加した)に次ぐオンライン総会であった。本総会で河野俊行会長が役員任期(3期9年)を満了され、大窪健之氏が本部執行委員に選出された。

第21回(2023年9月)は、オーストラリア・シドニーで開催された。本総会で、西村幸夫氏が名誉会員に選ばれた。シンポジウムは、Heritage Changes: Respect, Resilience, Relationshipを主題とした。岡田保良氏(国内委員会委員長)、西村幸夫氏(名誉会員)、河野俊行氏(名誉会長)、大窪健之氏(本部執行委員)、山内奈美子氏からの寄稿がある。筆者はこのシドニーの総会に初参加したが、ここまでを振り返り、また寄稿を拝読し、コロナ禍を経てようやく対面開催されて大変な盛会となったシドニー総会の意義を、改めて知ることとなった。

次回第22回総会は、2026年10月17~24日、マレーシア・クチンにて、シンポジウムはLiving Heritage: Respect, Enhance, Accept and Partnershipを主題に開催が予定されている 。Living Heritageをアジアで議論する意義は大きく、日本のこれまでの経験が必要とされる。

(札幌市立大学)

[1] 国内委員会が存在しない国の会員などは、別の規定が適用される。

[2] Japan/ICOMOS INFORMATION第2期第2号、1990.1.8

[3] https://www.icomos.org/actualite/icomos-2025-general-assembly/ (2025.11.20 access)