本部理事会、ICORP(危機管理・国際学術委員会)、アジア太平洋地域会議報告


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本部理事会、ICORP(危機管理・国際学術委員会)、アジア太平洋地域会議報告

Report of Board Meeting, ICORP (International Committee of Risk Preparedness) Meeting, and Asia-Pacific Regional Meeting

大窪 健之 Takeyuki OKUBO(本部執行委員)

大窪氏の発表_撮影淺田なつみ
シンポジウムでの発表の様子(撮影:淺田なつみ氏)

今回のイコモス総会2025@ルンビニ特集号において、国際イコモス本部理事を拝命している大窪に割り当てられた報告内容は、本部理事会、ICORP(危機管理・国際学術委員会)、アジア太平洋地域会議である。以下、この順番で概要をご報告させて頂きます。

今回の総会では、本部理事会が、総会前の2025年10月12日と、その後の10月15日の2回に分けて開催された。

本部理事会の内容については、厳しいコンプライアンス条項があるために議論の具体的内容には触れられず、紙面に記載できる範囲が限定される点をご了承いただきたい。

1回目の本部理事会でははじめに、今回までの事前のリモート理事会における決定事項として、スポット・オンザ・ホライゾン(イコモス活動の将来展望の検討)の方向性、当時内政不安状況だったネパール・ルンビニでのGA2025の開催の最終決定、ガザ・ステートメントの発出作業等について、確認がなされた。

その後、ゴルカ地震で被災したカトマンズ谷の世界遺産に関する、復興に際してのオーセンティシティについて懸念が示されている状況に対して、基本的にはポジティブな対応を目指しつつ客観的評価が必要となっている点が確認された。

次回総会については、GA2026マレーシア(サラワク州・クチン)について、10月17~24日の開催に向けて、詳細のスケジュール作成に取り組んでいる旨の報告がなされた。

GA2026についてイコモスマレーシアからの報告

財務報告については、収入増加を図るために、保全に係るトレーニング・プログラムの開催など様々な収益事業を検討中であることが報告された。現時点では国際イコモス本部活動に対して、フランス、オーストリア、中国が個別に追加出資しているが、さらに多くの国からのボランタリーな資金援助(1国あたり年間2万ユーロ程度)が必要になっており、戦略を含めて別の機会に再度議論することとなった。会費システムの変更についても慎重な対応継続が必要であり、特に開発途上国に対する会費算定アルゴリズムの調整について検討中であることが報告された。

地域グループ毎の報告については、日本の所属するアジア太平洋地域では担当副会長であるスーザン氏より、紛争への対応、災害対策、平和に向けた遺産の在り方等について議論されている(詳細はアジア太平洋地域会議の報告で後述)ことが報告された。なお各地域グループ会議には、イコモス会長のテレサ氏やAdCom会長のケリメ氏もなるべく招聘するように要請があった。

TT(タスクチーム)進捗報告については、以下に抜粋して報告する。

ユニバーシティ・フォーラムTT(大学を軸とするイコモス活動)については、活動の認証ルールを整備しつつ、フレキシブルなプラットフォーム構築を目指して、引き続き大学間のネットワークを構築することを目的とすることと、WEBサイトも作成することが共有された。世界規模でのネットワーク化を目指すが、まず地域別に数か所の拠点の構築を目指し、活動内容については随時理事会にレポートすること等が協議された。

ユニフォームド・セクターTT(イコモスと制服組との協働)については、どんなタイプの「セクター」と協働するのか定義をクリアにすべきことや、災害時に現場支援に入る際などは制服組との協働が無いと許可が得られない課題があることが共有され、ICLAFIに法的確認を依頼することも協議がなされた。

2回目の本部理事会は総会開催後の10月15日に開催された。前回に引き続き、タスクチーム活動報告から開始された。

ヘリテージ・アラートTTでは、ヘリテージ・アラートには緊急的な対応が重要であるため、手続きをシンプルにすることとプロセスを明確にする必要性等について議論された。またヘリテージ・アラートは成果ではなく、あくまでも事態を改善するためのプロセスであることが確認された。

スポット・オンザ・ホライゾンTTでは、各国内委員会からの意見収集のためのアンケート調査を実施したが、十分な回答数が得られなかったため、各地域のVP経由で国内委員会にリマインダーを送ることとなった。リマインダーの際にEPの意見も取り入れるように要請することも検討された。

その他、各国内委員会の課題対応について、スーダン国内委員会では、紛争で国外に避難しているメンバーの住所不明等のため会費の徴収が困難な状況であり、会費納入猶予について検討しつつ3月の理事会で状況確認すること等が確認された。

AdCom会議の報告については、国内委員会会長による投票数が少なく、地域会議からの重要な「提言」を含めた提起案件が採択に至らず、臨時動議によって本部理事会に決議がゆだねられることになった経緯が説明された。一方で、元々は全ての投票権者数ではなく総会参加者数を母数として過半数が承認すれば良いとの規定になっており、そもそも規定数を満たしていたと考えることもできる状況だったことが確認された。いずれにせよ投票数が少なかったことは深刻な懸念事項であり、今後は投票要請に対して必ず受領書(レシート)を返送してもらい、返信が無い場合は棄権と見なすか、再度リマインドする等の対策を検討することとなった。今回提起された5つのガイドラインと土の建築ISCからの提言については、AdComで投票数が足りずに採択できなかったが、1月の理事会で最終確認して、理事会の責任で採択をめざすことになった。

イコモス・アカデミー(国際イコモス会長等経験者による理事会へのアドバイザリー制度)については、権限も限定的で役割も変わりつつあることから、誤解されやすい名称を変更する(例えばイコモス・ボード・サポーター等)ことも議論された。1月の理事会で継続して議論することとなり、河野前会長や大窪もTTメンバーに加わることになった。

その他、今後のGA開催について、現時点での候補地(立候補)の状況について報告があった。2029は3年次総会なので大規模なキャパシティが必要であり、地域別のバランスも考慮する必要があるなど、意見交換がなされた。

10月12日の午後に開催されたアジア太平洋地域グループ会議では、以下3点の提起がなされた。

紛争に関して本地域は、紛争を非難し、ガザ及びウクライナにおける日常的な生活遺産及び有形文化遺産への相応の影響を懸念する勧告を支持することが確認された。特にアラブ諸国からの提案、すなわち来年にICOMOSの役割及びこうした紛争への実践的対応を議論する会合「Heritage and Peace」を開催することを支持するが、この決議は世界中で発生するあらゆる紛争を対象とすることを付記することとなった。この紛争には、頻繁に発生する地域紛争、数十年にわたり継続し文化・人命・伝統的生活様式を緩やかに損なう紛争、突発的に勃発し沈静化したかに見えた後に再燃する紛争も含まれ、多くの場合、遺産は武器、あるいは標的とされる可能性があることについて意見交換がなされた。

次に、自然災害および壊滅的な気候変動の影響について意見交換がなされた。喫緊のフィリピンを襲った壊滅的な地震と余震が、人命を奪い、生計手段や文化遺産を破壊していることを受け、来年にも実践的なワークショップを開催することについて議論を行った。専門家と各国代表を集め、国内委員会や地域コミュニティが有形無形の文化遺産の災害に対して、より効率的かつ効果的に対応し続けるための支援を行う方針が出された。

最後に平和に関して議論がなされ、この会合が仏陀の誕生地で開催されていること、そして平和と寛容というその中心的なメッセージに留意し、平和とはアジア太平洋地域にとって何を意味するのか?、平和な社会構築において文化遺産はどのような役割を果たすのか?、紛争後のコミュニティにおける平和の再構築における文化遺産の役割は何か?、という問いについて議論と考察を継続することを決議した。

10月12日の夕刻には、ISCの1つであるICORP(危機管理・国際学術委員会)の会議が会場に最寄りのHokkeホテルにて開催され、主に防災に関するイコモス3年次学術計画について議論された。現在推敲中の防災危機管理に関する憲章については、2か月間の校正期間を予定することが確認された。2010年にイコモス+イクロム+ユネスコから文化遺産防災ガイドラインが出版されたことについて、動産文化遺産の災害時救出のための手順が中心であり、不動産文化遺産を含めた包括的な緊急対応については十分には示されていないため、より広範な教義や憲章が必要との認識が共有された。またユネスコにもEPR(災害緊急対応ユニット)が存在するが、現場レベルで役に立つ予防防災の指針が必要との意見が出された。なお火災対策についてはICORPからプリンシプル(原則)が出されたが、紛争などその他の災害に関しては原則や指針が無い状況であり、対応の必要性について意見交換がなされた。

(立命館大学理工学部 )