巻頭言(2025年冬号)
巻頭言(2025年冬号)
Foreword (Winter 2025)
岡田 保良 Yasuyoshi OKADA(日本イコモス国内委員会委員長)
木枯らしを背に、一年を振り返る季節がやってきました。四季ではなくて二季だとかが、はやり言葉として受けているそうですが、けれども緋色黄色鮮やかな愛でるべき風光は、やはり日本の秋ですね。前号から此の方、私にとって第一に特筆すべきは、やはり年次総会という機会に乗じて初めてネパールを訪ねたことでしょうか。全9日間のプログラムのうち最後の一日のカトマンズを除いてすべて、仏陀の聖地ルンビニの都市計画エリア内で淡々と開催されました。10月半ばというのに、日本の真夏の陽気でした。総会プログラムの中身に関しては、森朋子氏のご尽力で本号に特集を組んでいただいたのでそちらをご参照ください。
参加するイコモスメンバーの中には、半ば職務上の義務意識が動機となっている人もいれば、自らの調査研究分野に見合うセッションでの主張に意欲を燃やして参加する人たちも大勢います。日頃離れている友人たちとの再会を楽しむ人もいます。ただ、そういう人たちみんなに共通しているのは、めったに訪れることのない土地、町、遺跡へのつよい好奇心ではないでしょうか。主催者が会議の合間や日程の最後に用意してくれる様々な見学ツアーは、参加者の大きな楽しみです。仏陀生誕の地を証拠立てる本物のアショカ柱周りを円形で区画した「聖苑」には2度も案内される機会があり、仏陀の遺跡を実感しました。ただ私の場合、都合で日程最後のカトマンズでのツアーに参加できなかったため、会議に先行させてカトマンズ渓谷に点在する町々を訪問することにしました。こういう番外旅程を目論むのも国外での集会に参加する醍醐味です。

というわけで、公式日程の直前と直後に、私自身、世界遺産を中心に「渓谷」の何か所かを訪ねることができました。歴史上、15世紀の王朝が分裂した結果、渓谷には、カトマンズ、パタン、バクタプルという3つの王都が展開することになったと言います。煉瓦造の壁体と木架構の屋根そして層塔へのこだわりという、共通する建築様式を育んだ歴史的な町並みと広場の都市空間が、訪れる者の目を見張らせます。規模の差こそあれ、カトマンズとパタンでは多数の寺院が展開する王宮広場が世界遺産として切り取られるのに対し、バクタプルでは旧市街を、広場を含めて延々と貫く帯状の町並み全体が構成資産になっていました。最後に訪れたカトマンズの王宮広場は、その規模、寺院の数、多様の意匠、他の2都市との比ではありません。広場に至る通りの賑わい、そこには人と歴史と建築が織りなす格段に密度の濃い闊達な空間が延々と続きます。ほかのどの世界でも経験したことのない驚嘆がそこにはありました。ただ世界遺産のエリアからは除かれているようで、もどかしいような口惜しいような思いがのこります。そこにあるとすればどういう価値か、そして何を保存しなければならないのか、を大いに考えさせる雑踏でした。
来年の総会は3年に一度、役員改選が行われる特別な大会になります。マレーシアのサラワク州州都のクチンという歴史ある都市で開催の予定です。会員の皆さまには、イコモスの楽しみ方を探ってみてはいかがでしょうか。
皆さまには本年に倍して良き新年を迎えられますことを、心よりお祈り申し上げます。