ICOMOS総会2024ブラジル(オウロ・プレト)参加報告


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ICOMOS総会2024ブラジル(オウロ・プレト)参加報告

Report on the ICOMOS Annual General Assembly 2024 in Brazil (Ouro Preto)

大窪 健之 Takeyuki OKUBO

オウロプレト(サイズ小)
オウロプレト

今回は、国際イコモス理事会に対面参加するとともに、年次総会への参加に加えて、学術シンポジウムでも口頭発表が決まったため、オウロ・プレトまで行くこととなった。自身初の南米大陸訪問である。

今回も予算に限りがあるため、価格比較サイトとにらめっこで安価な航空券を探したが、ブラジルは地球のちょうど裏側に位置するため、東西回りでの移動距離にあまり差が無く、関空からドーハ経由の西回りでの渡航を決めた。ドーハとサンパウロでの乗り継ぎ時間を含めてだが、旅程表を確認すると所要時間の欄に「1日と8時間」という(目を疑うような)記載があり、人生最長の移動時間となった。(終着のベロ・オリゾンテの空港から、オウロ・プレトまでは、さらに車で2時間かかった。)

11月9日の夕刻に、ベロ・オリゾンテにて市の主催となる夕食会に参加し、翌日11月10日の乗り合いタクシーでオウロ・プレト入りした後に、ボード会議に参加した。

会場となったオウロ・プレトは、かつて金鉱脈の発見によるゴールドラッシュで栄え、バロック様式で街がつくられた美しい山間部の都市である。鉱山都市は一般に閉山すると廃墟になるケースが多いが、ここは行政の中心が置かれていたことと、アルミ鉱山としての操業を継続できたことから、いまも伝統的なコミュニティが存続する世界文化遺産となっている。

これまで理事会メンバーとは頻繁にオンライン会議で顔を合わせているが、直接会えるのは年に2回程度なので、初回のボード会議では旧交を温めつつ、熱のこもった効率的な議論がなされた。

ボード会議の様子

翌11月11日には学術評議会(Scientific Council Meeting)があり、活動報告と向こう3年間の学術計画(2025~27年)について提案がなされた。

「災害と紛争に瀕するヘリテージ・タスクフォース」については、シドニー総会以降に20人以上のボランティアで草稿され、2025年は予防防災、2026年には応急対応、2027年には復旧復興の課題に取り組むとともに、災害対策のツールキットを作成予定であることが示された。Q&Aでは、CIPAとも協働のオファーが有り、他のISCとも取り組みが重なるので、出向者チームを編成するなどの検討が求められた。

「理念等に関する文章採択プロセス」については、国内委員会などにも適用されるために意見聴収中であることが報告され、Q&Aでは、既存の文書については適用対象外とすることが確認され、具体に文書構成のドラフトが欲しい等の意見が出された。個人的にも、手順を判りやすいフローチャートにまとめる等の工夫が必要と思われた。「水ヘリテージ委員会」創設については、棚田の文化的景観などが紹介され、水利用の文化(土着の知恵)の重要性や温暖化問題への寄与について説明された。

その他、「ICH(無形文化遺産)委員会」の創設について、規約を準備中であることが報告され、「保全と費用のISC」創設についても検討経過が報告された。なお「工業遺産ISC」については、通常のISC形態に準ずるべく再編されることになった。

「火災対策ガイドライン(Fire Guideline)」の進捗報告についても報告があり、ICORPほか共同で草稿しレビューを依頼し、16の国内委員会と14のISCからフィードバックが有り、さらなるレビューやワークショップを開催するなど、作業を継続する予定であることが説明された。Q&Aでは、各国の事例を参照すべき、危機管理の類似する課題についてはICORPのタスクチームとも協働すべき、関心あるISC会長を草稿メンバーに入れるべきではないか、等の意見交換が行われた。

「バレッタ原則(Valletta Principle)」についても報告があり、都市の保全とマネジメントに関する原則について、危機管理対策を加える予定について説明がなされた。Q&Aでは補足として、移民の問題なども都市に影響があるため、考慮すべきとの意見交換がなされた。

「伝統構造のISC(ISCARSAH)のガイドライン」についても、チェックリストなどで診断し補強するための指針を整理し、公式文書として先の「理念等に関する文書採択プロセス」に乗せたい旨の説明があった。

引き続き地域別会合(Regional Meeting)の時間が持たれ、「アジア・太平洋(AP)地域会合」に参加した。主な議題は、今後3年計画の3つの柱となる活動の検討であった。

アジア・太平洋(AP)地域別会合の様子

一つ目は「遺産インパクト評価(HIA)」についてで、現在イクロムのユージン氏のサポートでウェビナーシリーズを開始しており、将来的にはHIAのためのツールキットの作成を目指すこととなった。併せてケーススタディ中心のトレーニングも検討する方針となった。

二つ目は「文化的景観保全」についての取り組みを検討するため、軍事遺産(理事のドーウォン氏)と文化と自然(副会長のスーザン氏)について話題提供がなされた。コミュニティの参画で保全されているセブ島の田園風景などの事例報告があった。

三つ目は「災害危機管理」についてで、AP地域ならではの活動を目指す方向性が共有された。ICOMOSフィリピンと立命館大学のMoUによる世界遺産担当者への防災教育における協働の予定や、宮﨑氏による今後の進め方についての課題提起、ハッタヤ氏によるSEAMEO-SPAFAとの継続的連携など、参加者との意見交換がなされた。

その他、ユニバーシティ・フォーラムのAP版について報告がなされた。9月20~22日に北京の清華大学で中国版ユニバーシティ・フォーラムが開催され、文化遺産保全に係る学部や大学院を持つ中国国内の大学学部長クラスが会合し、カリキュラムの紹介や意見交換を実施したことが報告された。毎年持ち回りで開催する方針で、来年は天津大学の予定。理事会からは副会長のレオナルド氏、理事のドーウォン氏、大窪が参加した。今後、韓国や日本国内でも同様の取り組みを検討し、AP地域活動に発展させる可能性を模索することが確認された。最後に全体の3年計画や、AP地域の活動予算獲得の課題について、意見交換がなされた。

次回対面でのAP会合については、2025年4月15~18日に韓国にて「HIAとHeritage Interpretation(仮)」をテーマに、文化遺産協会(CHA)等の支援を受けて開催の予定となった。

11月12日には、副会長のゼネップ氏の主催する、行政担当者を含む現地メンバーを対象とする災害危機管理に関するワークショップに参加した。

災害危機管理ワークショップの様子

講義パートでは、ブラジルでの軍事体制からの再民主化による憲法改正と原住民を含む住民参加への契機など、歴史的背景とコミュニティのレジリエンスについても説明があり、有形、無形、自然遺産のマネジメント体制の縦割りや、経済的な開発圧力、ソーラーパネルなどの新技術による景観変容など、課題面についても共有された。その後に4つのグループからワークショップの成果発表があり、大窪からも講評をさせていただいた。専門家としての若手学生を参加させるアイディアや、ダムによる治水面でのリスクと事前復興計画の重要性、リスクマップの作成に留まらないリスク間の関係性の分析、鉱山開発の進む山地の裏側に自然景観が残る歴史的経緯の調査等について示唆をさせていただき、有意義な意見交換をさせていただいた。

その後夕刻からは臨時理事会が設定され、イコモス60周年記念事業と将来ビジョンについてのワークショップが開催された。

臨時理事会におけるワークショップの様子

11月13日には2回目の理事会と総会が開催された。

総会では、前回のシドニー総会以降12回の理事会が開催され、加えてブラジル現地で2回の対面開催がなされたことや、デリーでの世界遺産委員会の開催報告、テクニカルレビューを含め世界文化遺産の選定に際してイコモス全会員ののべ20%が貢献してきたこと等が報告された。2025年のイコモス年次総会については、ネパールのルンビニで10月13日から19日にかけて開催される予定であることが公表された。その他の議題と結果については国際イコモスHPにレポートされるため、詳細はここでは省略させていただく。

11月14日からは15日にかけては、学術シンポジウムが開催された。会場となった大学内の会場設定が直前まで公表されなかったため、各種の発表を聴講するために走り回る結果となったが、オウロ・プレトの土砂災害や、中国の故宮の修復に際するベニス憲章への参照、ベニス憲章で示された価値に照らした軍事遺産の特性、元立命館大学歴史都市防災研究所・専門研究員で現在東京大学・教員の宮﨑氏による、ベニス憲章に対する英訳に内在する課題と奈良文書のオーセンティシティとの統合に関する発表などを聴講し、自身も日本の歴史的町並みを保全するための街頭消火器の配置手法に関する研究発表を行った。

なお今回のブラジル総会には、日本人の現地参加者は大窪と宮﨑氏、東文研から参加された金井氏と、(確認できた範囲では)3名のみであった。現地の運営も、ブラジル・イコモスがホストを引き受けることになって8か月で準備せざるを得なかったためか、プログラムや会場等の情報が前日(場合によっては当日)になるまで公表されない等のハプニングが続出しつつも、結果的に皆が広い心で受け止めるという、個人的には良い意味で印象深い総会となった。

11月16日ベロ・オリゾンテ発の便で帰国の途に就いたが、サンパウロ発ドーハ行きの深夜便が直前にキャンセルになり、強制的にサンパウロ市内に24時間滞在することとなった。航空会社が午前4時に用意したホテルでは、帰国直後に予定されていた韓国消防安全協会での講演や、その他会議の欠席に対するお詫びと対応に追われ、その後は眠い頭でホテル近傍の公園を散策した。偶然に訪問することになったイビラプエラ公園では、敬愛するオスカー・ニーマイヤー氏設計の建築がてんこ盛りだったために一瞬で目が覚め、非常に有意義な時間を過ごすことができた。とまれ来年の総会では想定外のトラブルは少なめであることを祈りつつ、ブラジル総会への参加報告とさせていただきます。

(国際イコモス理事)