特集にあたって:第46回世界遺産委員会の議論と日本の展望
特集にあたって:第46回世界遺産委員会の議論と日本の展望
Introduction to the Special Issue: Discussions from the 46th World Heritage Committee and Japan's Prospects
下田 一太 Ichita SHIMODA(本号特集担当)
本特集号は、2024年11月27日に開催された日本イコモスの世界遺産研究会「第46回世界遺産委員会の報告会」にご登壇いただいた3名の発表内容を再構成してお届けするものである。
大野渉氏からは、世界遺産委員会での議論の中でも特に注目を集めた議論について、具体的な事例を交えて解説いただいた。新規推薦資産の審査状況、昨年より新たな類型として導入された「記憶のサイト」にかかる議論、危機遺産の議論では諮問機関から一覧表記載の勧告がされていた「ストーンヘンジ」や「仏陀の生誕地ルンビニ」が見送りとなった経緯など、日本における今後の世界遺産リストの更新や、登録された各資産の維持管理においても有用な委員会での審議とサイドイベントを取り上げていただいた。
澤田敦氏からは、今年の委員会で新規登録が決定した「佐渡島の金山」について、世界遺産として主張した価値、登録までの長年にわたる経緯と取り組み、諮問機関であるイコモスからの審査時の勧告内容と対応について詳しく紹介いただいた。加えて、登録後の展望や予定されている取り組みについても紹介いただいた。
鈴木地平氏からは、日本政府による今後の世界遺産申請のあり方について、文化審議会による議論の経過やその答申の内容をもとに説明いただいた。日本が目指すべき世界遺産一覧表の方向性として、日本の時代区分や文化類型の代表性をより包括し、世界遺産一覧表のギャップの解消に貢献し、登録が地域の持続的成長に寄与するものであることが示された。
当日は、会場およびオンライン参加者から多数の質問が寄せられたが、特に「佐渡島の金山」と「事前審査(Preliminary Assessment)」に関して活発な質疑が行われた。佐渡島については、イコモスからの勧告の意図と委員会までの対応に関係して、近世の鉱山関連資産の位置付け、鉱山技術と鉱山集落にかかる評価、そして洋上の緩衝地帯の範囲設定と主張する価値に関して質問が寄せられた。また、「事前審査」については、審査内容や審査プロセス、この制度に期待される効果、事前審査と正式な推薦後の審査の一貫性などに関する質疑があり、今後の日本からの新規申請にも深く関わるところで高い関心が集まった。
3名の専門的な発表と、それに続く活発な質疑応答は、世界遺産の推薦や保全の現場における重要な示唆を提供するものである。本特集号では、これらの内容を再構成し、最新の世界遺産の動向について多くの読者に共有することを目的としている。
特に、世界遺産登録を地域社会や文化の持続的成長に活かしていく方策や、日本の文化遺産が世界遺産一覧表の枠組みを拡張し、人類史にとって重要な一面を新たに追加する可能性について、さらに深く考察する契機となることを期待するものである。