20世紀国内学術委員会「日本の20世紀遺産を考える-代々木競技場の世界遺産登録に向けて」


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20世紀国内学術委員会「日本の20世紀遺産を考える-代々木競技場の世界遺産登録に向けて」

Considering Japan's 20th Century Heritage - Towards the World Heritage Registration of Yoyogi National Stadium

豊川 斎赫 Saikaku TOYOKAWA

image2 斎赫 豊川

2024年9月7日、神保町の岩波書店一ツ橋ビル地下会議室にて、日本イコモスNSC20c(20世紀国内学術委員会)主催の研究会「日本の20世紀遺産を考える-代々木競技場の世界遺産登録に向けて」が開催された。冒頭、日本イコモス理事の田原幸夫氏より趣旨説明がおこなれ、近年のDOCOMOMO Japanの活動(2000-2021)や日本の20世紀遺産20選(2017)の概略、国立代々木競技場の重要文化財指定(2021)、代々木競技場の世界遺産登録に向けた国際シンポジウムが東京大学安田講堂にて開催されたことなどが紹介された。

勉強会の第一部として、稲葉信子氏(筑波大学名誉教授)より「近年のOUVの動向から見た20世紀遺産の特徴」に関する講演が行われた。その中で稲葉氏は、「世界遺産に登録される際に求められているのは対象の単純な比較で世界一であることではなく、国際社会が保護の価値に値すると思うもの」であり、「世界各地の人々がそれぞれの歴史の節目で築き上げてきたもの」と指摘する。また、20世紀遺産についてシドニーオペラハウスを取り上げ、登録までに四半世紀かかったのは建築後10年も満たない建築に対する評価が定まっていなかったことを挙げた。さらに、世界遺産が建築家の業績を顕彰するものではなく、「それでこそ世界遺産という、力強いメッセージを世界各地の人々に届けられるためにOUVを構築する必要がある」と強調した。

第二部では、筆者がパリ日本文化会館で行われた「丹下健三と隈研吾展」の内容、及びパリのICOMOS事務局でのヒヤリング結果について報告を行った。筆者は同展覧会のキュレーションを担当し会場設営のために1ヶ月ほどパリに滞在したが、特に印象的だった点が三点ある。一つ目に、下川眞樹太・駐フランス特命全権大使、加納雄大・ユネスコ日本政府代表部大使、Marie-Laure Lavenir・ICOMOS Directeur Generalらに内覧会にご参加いただき、大使公邸の晩餐会にご招待いただけた。二つ目に内覧会翌日に上川陽子外務大臣(当時)が展覧会場を視察され、外務省の方々に国立代々木競技場の世界遺産登録の重要性について直にプレゼンできた。三つ目にパリの三大紙であるル・モンド、リベラシオン、フィガロ各紙に展評が大きく掲載され、パリ市民に戦後日本の近代建築を強くアピールできた。

なお、勉強会当日の様子は2024年10月14日付の日本経済新聞紙面「風紋:世界遺産目指す代々木競技場 昭和史の舞台を人類の宝に」でも紹介された。

(千葉大学 大学院工学研究院 准教授)