シリーズ「会員往来」(第8回)
シリーズ「会員往来」(第8回)
Correspondence
佐藤 桂 Katsura SATO
日本イコモス広報委員長を担当しております佐藤桂と申します。今年の春に前任の増井正哉先生より職務を引き継いで以来、新たなメンバーとともに、旧来のインフォメーション誌のウェブマガジン化を進めてまいりました。本号で3号目の発行となりますが、皆様にうまく届いていますでしょうか。
世の中のデジタル化はますます加速し、情報発信のかたちは日進月歩で変わり続けています。私の勤める大学でも、授業の資料はオンラインツールで配布、レポートの提出やフィードバックも基本的にはオンラインでのやりとりが当たり前となりました。デジタルネイティブと呼ばれる世代にとって、また、コロナ禍を経験した私たちにとって、大変便利になったことには感謝すべきですが、増え続けるネット上での交流に反比例して、人間本来の顔の見える関係性は希薄化し、比重を減らしているようにも感じます。
インフォメーション誌が紙媒体だった数年前までは、ポストを開けると封筒に入った冊子が届いている、という体験がありました。私たちはページをめくる楽しさと引き換えに、印刷・製本・配送といった情報を運ぶ媒体としての「モノ」の縛りから解放されたことになります。新しいインフォメーション・ウェブマガジンは、インターネットに接続できる環境さえあれば、世界中のどこからでもアクセスできる、オープンな情報交流の場となりました。これまで以上に、多くの会員の方々の声を届け、関係の輪を広げられる媒体になっていくことを期待しています。
しかしながら、その一方で、効率化が先行し、発信者の顔が見えない状態のままでは、情報が一人歩きしがちです。そのため、旧来のインフォメーション誌から継続している本シリーズは、会員の一人ひとりに光をあて、研究活動や専門分野の紹介をしてもらうことで、相互理解やコミュニケーション促進の一助となることを目指しています。今回、私自身に順番が回ってきてしまい、若干焦りつつ、以下に簡単ですが自己紹介したいと思います。
富山県高岡市で生まれ、石川県金沢市で育ちました。大学進学とともに上京し、建築の勉強をしながら、自分の世界を広げたくて、大学院ではエジプト調査に参加し、ルクソール西岸マルカタ王宮の建築装飾に着目した修士論文を執筆しました。就職してマダガスカルの小学校建設計画に少しだけ携わったのち、退職してフランスに留学し、帰国して博士課程に入り直し、カンボジアのアンコール遺跡調査に参加し、博士論文では古代クメールの都市遺跡を実測調査をもとに分析しました。その後も現在に至るまで、東南アジア諸国の文化遺産や建築調査を継続しつつ、国内の伝統建築や近代建築の歴史調査や保存活用計画等に携わっています。最近は、故郷である高岡市でも古い町並みや町屋等を対象として、学生たちと調査研究を行なっています。
イコモスに入会したことは、さらに自分の世界を広げてくれました。各分野の第一人者の先生方と直接関われることは、大きな学びの機会をもたらしてくれます。具体的には、ICOFORT国内学術委員会での城郭比較研究、第一(憲章)小委員会でのベニス憲章日本語訳見直しWGに参加する中で、視野が広がり、ますます興味の幅が増しています。このように書いてくると、改めて自分でも呆れるほど拡散的な思考で、興味のままに動いてきた人生であると思います。しかし世界は広く、毎日が新しい発見に満ちていて、いつまでたっても目の前の関心ごとを追いかけています。
以上、雑駁な内容となりましたが、まだ見ぬ未来の世界への希望を抱きつつ、イコモスでの活動を通して、今後も多くの方々とつながることができれば、大変嬉しく思います。新しいインフォメーション・ウェブマガジン(※)の今後の成長のためにも、どうぞお力添えいただけますよう、何卒よろしくお願いいたします。
※これまでは「info誌」の略称で呼んでいたインフォメーション誌ですが、今回のウェブ化により「どのように呼べば良いのか」という問い合わせを受けています。こちらでも頭を絞っていますが、良いアイデアが浮かびません。もし良い呼び名を思いついた方がいらっしゃれば、ぜひご一報いただければ幸いです。
(シリーズ「会員往来」の寄稿者を募集しています。ぜひ積極的にご参加、ご活用ください。他薦も歓迎いたします!)
佐藤 桂(さとう かつら):1995年早稲田大学理工学部建築学科卒業、1997年早稲田大学大学院理工学研究科修了、パシフィックコンサルタンツインターナショナル勤務後、退職してパリ・ソルボンヌ大学に語学留学、2010年早稲田大学大学院にて博士号(建築学)取得、早稲田大学理工学研究所次席研究員、東京文化財研究所文化遺産国際協力センターアソシエイトフェロー、文化財保存計画協会特任研究員を経て、2022年より武蔵野大学工学部建築デザイン学科准教授