ISC PRERICO関連の韓国とフィリピンにおける国際会議


HOME / 季刊誌 / 2024年秋号(Autumn 2024) / ISC PRERICO関連の韓国とフィリピンにおける国際会議

ISC PRERICO関連の韓国とフィリピンにおける国際会議

ISC PRERICO and Related International Conferences in Korea and the Philippines

福島 綾子 Ayako FUKUSHIMA

写真1 カガヤン・デ・オロ大司教区ハサン教会の視察
写真1 カガヤン・デ・オロ大司教区ハサン教会の視察

PRERICO(International Scientific Committee on Places of Religion and Ritual, 宗教と儀礼に関する場所の国際学術委員会)は、2017年に設立された比較的新しいISCである。私はカトリック教会建築の研究をおこなっていることもあり、2023年からPRERICOのエキスパート・メンバー、日本代表となった。

2023年11月、韓国にてカトリック教会建築に関する国際会議Trends in World Heritage Listing of Religious Heritage and Korean Catholic Heritageが開催された。主催は忠清南道歴史研究所、韓国カトリック教会、スポンサーは韓国政府である。PRERICO主催行事ではないが、PRERICOと深く関連するため報告をする。会議には韓国、フィリピン、スウェーデン、日本のPRERICOメンバー5名らが参加した。この会議は韓国のカトリック教会建築群を世界遺産に推薦する準備の一環として開催された。会議に先立ち、構成資産候補である教会堂の視察をおこなった。朝鮮でも19世紀にカトリックに対する禁教・迫害があった。迫害が終わった後に建設された教会堂は、パリ外国宣教会が朝鮮を所管していたこともあり、ゴシック色が強い。世界遺産推薦の活動は、カトリック司祭がイニチアチブをとっていることが印象的であった。

この視察・会議で改めて思い起こされたのは、日本のカトリック遺産を世界遺産登録する試みにおいて、禁教令撤廃後に建設された教会建築のほとんどが最終的には構成資産とはならず、禁教期に形成された潜伏キリシタン集落が主な構成資産となったことである。西洋の教会建築学の観点からは、日本の教会建築はOUVがあると評価されなかった。我々PRERICOメンバーは、韓国の教会群もそのように評価されることを危惧した。また、現在のイコモスによる世界遺産評価では、アジアの西洋建築に対する評価が低くなされる傾向にあることをメンバー一同は感じた。そして、アジアの教会建築に対する新たな解釈・歴史観の提示が必要なのではないかと話し合った。このため、参加したPRERICOメンバーらでARCH(Association of Religious Church Heritage)という新たなグループを結成し、翌年にフィリピンに集まって議論を継続することとした。

2024年8月、ARCHの活動として、フィリピンでカトリック教会建築の国際会議が開催され、フィリピン、韓国、日本のPRERICOメンバーが参加した。主催はサント・トマス大学熱帯文化遺産・環境保存研究所、カガヤン・デ・オロ大司教区である。カガヤン・デ・オロ大司教区の教会堂・遺跡、マニラの教会堂を視察した(写真1)。フィリピンの文化財行政担当者、教会関係者も多数参加し、関心の高さを感じた。また、複数のフィリピン人司祭が、文化遺産保存の専門教育をサント・トマス大学で受け、バラ憲章などの保存理論に精通し、それぞれの任地で教会堂の保存修復プロジェクトを管理していることには大変驚き、感心した。

会議では、アジアの教会建築の世界遺産登録状況について私は発表した。アジアでは、インドとフィリピンの2件の教会群がシリアル資産として登録され、フィリピン、マカオ、マレーシアの3件が歴史的都市のなかの構成資産として教会建築が登録されている。日本では長崎・天草の潜伏キリシタン関連遺産のうち、構成資産の教会建築としては大浦天主堂が登録され、集落内の構成要素としては江上、出津、大野、旧五輪教会の4件がある。これに対し、ヨーロッパではアミアンやアーヘンなど、教会堂が単独の「モニュメント」のカテゴリーで多数世界遺産登録されている。ディスカッションでは、アジアの教会建築学はどうしたら「脱植民地」できるかなどを話し合った。アジアの教会建築保存と評価を考えるこの取り組みは今後も継続していく。