研究会報告 EP(若手専門家)委員会 オーセンティシティに関する連続研究会 第4回「デジタル時代における文化遺産のオーセンティシティ」
研究会報告 EP(若手専門家)委員会 オーセンティシティに関する連続研究会 第4回「デジタル時代における文化遺産のオーセンティシティ」
The 4th Seminar Report of the EP Webinar Series on Authenticity: “Authenticity of Cultural Heritage in the Digital Age”
八並 廉 Ren YATSUNAMI
2023年11月18日、EP(若手専門家)委員会主催のオーセンティシティに関する連続研究会の第4回「デジタル時代における文化遺産のオーセンティシティ」(研究会企画:八並廉、岡崎瑠美、山田大樹)が実施されました。
開催趣旨
オーセンティシティに関する連続研究会においては、これまでも様々な視点から文化遺産のオーセンティシティを再考する企画を実施しており、各研究会の内容は記録集としてイコモスウェブサイトに掲載されています。同連続研究会の第4回においては、文化遺産に関するデジタルデータをテーマとして選び、その活用方法や管理方法をめぐる課題についてオーセンティシティの観点から議論しました。2018年に文化遺産の復旧及び復興に関するワルシャワ勧告(Warsaw Recommendation on Recovery and Reconstruction of Cultural Heritage)が高精細な3Dデジタル記録を含む新興技術がもたらす可能性と課題に言及する(同勧告パラ10)等の近年の動向からみても、これはますます検討が求められている社会課題の一つであると考えたためです。
講演
まず、井川博文氏(文化庁文化資源活用課文化財調査官)より、『デジタル技術とオーセンティシティの関係性の探求―Europeana Tech Conferenceでの学びから』と題し、御講演いただきました。井川氏は、2021年4月から2023年10月までICCROMに出向された時期、プロジェクトマネージャーとして、デジタル技術を中心とした専門家間の交流を促すイベントを企画運営される等、同分野の議論の深化に貢献されてきました。御講演においては文化遺産のデジタルアーカイブをめぐる取り組みや今後の展開について示唆に富む議論が展開され、参加者間のディスカッションが大いに刺激されました。
続いて、野口淳氏(公立小松大学次世代考古学研究センター特任准教授)より、『文化遺産デジタル情報のオーセンティシティ 議論の足場づくりのために』と題し、御講演いただきました。野口氏は、先史考古学の立場から、文化遺産の3D計測やデータ利活用に取り組まれ、それらに基づく研究成果を積極的に公表されています。御講演では、文化遺産のデジタル情報を議論する意義から見直す総論的な検討から、3D計測の事例やデジタルデータが有する特性等の各論的な事項まで多岐にわたって議論の位置づけを示してくださり、参加者の思考を刺激するとともに、意見交換が活発になる環境を整備してくださいました。
参加者からの反応
これらの講演を踏まえ、研究会後半ではディスカッションの時間が設けられました。そこでは、将来における文化遺産の復元の在り方、建築や文化遺産を学ぶ学生の教育に関する課題、デジタルデータのバージョン管理、並びに、データの記録や利活用に関するプラットフォームをめぐる議論まで、多様な問題について質疑応答や意見交換が行われました。また、デジタルデータの利活用の議論の一環として、AIとの協働をめぐる議論に関心を寄せる意見も多く示されました。
なお、オーセンティシティに関する連続研究会の第3回(観光)と第4回(デジタルデータ)は、同じ日に実施されました。デジタル情報の活用の問題は観光分野においても重要になるため、これらに連続で出席された参加者も少なくなく、相互に関連する議論が展開されたことは有意義でした。他方で、アンケートには1日に研究会2回分の時間の確保は難しいとの御意見も寄せられました。頂戴した御意見は今後の企画立案に活かすとともに、当日に御都合が合わなかった方向けのアーカイブ配信や記録集を公開する活動も引き続き実施していければと考えています。本研究会の記録(オーセンティシティに関する連続研究会記録集第4回)については、イコモス国内委員会のウェブサイト上で参照することができ、その中にはアーカイブ動画のリンクも掲載されています。