京都観光のオーセンティシティ
京都観光のオーセンティシティ
Authenticity of Kyoto Tourism
桑原 佐知子 Sachiko KUWAHARA
EP(若手専門家)委員会は、「京都観光のオーセンティシティ」と題し、観光の視点から京都らしさとしてのオーセンティシティについて考えることを目的にハイブリッド研究会を開催した。研究会では、京都市観光協会(DMO※)企画推進課の福永香織氏より「京都観光のオーセンティシティ」、関西国際大学の宗田好史教授(ディスカッサント)より「繰り返された京都らしさの議論―形作られた都の表象―」と題して講演を頂いた後、参加者で議論を行った。
まず、福永香織氏からは、DMOが実施する「インバウンドイノベーション京都」という事業などを通じた京都観光のオーセンティシティに関する話題提供があった。同事業は、インバウンド向け観光コンテンツ開発事業者を支援するものであり、支援対象事業選定の審査基準の一つに「本当のより深い京都の魅力を楽しめる」(オーセンティシティ)がある。「オーセンティシティ」の判断は、「新しい」「古い」の価値観ではなく「わざわざ京都で体験するコンテンツとして語れるストーリーがあるかどうか」であると説明された。なお、「オーセンティシティ」が審査基準になっている背景には、1)「安かろう悪かろう」(偽物)との差別化、2)京都の深い魅力の体験に尽力する事業者支援、3)偽物を見抜けない消費者、そもそも本物を求めない消費者の存在、4)京都が来てほしいターゲット(「知的好奇心の高い人」)へのアプローチ、という観点があると言う。
オーセンティシティの概念は、都市や場所の差別化・ブランディングにおいても用いる事ができるが、福永氏からは、京都市のプレイスブランディングの検討のための有識者ヒアリング結果も共有された。同結果は、京都の魅力や未来の理想の京都観光として「語りつくされない」、「過去と現代のつながり」、「多様で個性がある」、「美意識・心意気」、「自然が近い都市」、「文化が生活に息づいている」といったキーワードで紹介された。
これに加え、同氏より「レジリエンスでホロニックな京都」という概念が提起された。レジリエンスとは、地域やモノが様々な影響(ショック、ストレス)を受けて常に変化(再生と革新)することと定義された。京都においては応仁の乱や東京遷都といったショック、土地が狭いことや盆地気候というストレスに該当するとした。そして、こうしたストレスやショックが「アート・ポップカルチャー」、「映画」、「伝統芸能」、「伝統産業」、「建築・町並み」、「食・食べ物」、「年中行事・イベント」、「歴史・文化」、「自然・地形」といった多様(異質)なものを創出し、過去・現在、新・旧が交わり、これら全てが相関して誰にも簡単に説明も理解もできない奥深い京都の魅力をつくっている、と説明された。これが、ホロニックな京都であり、上記有識者ヒアリングの結果とも一致している。
これを受け、宗田教授の講演では、各時代で「京都らしさ」探しは繰り返され、「作り出されてきた」ことが説明された。江戸時代、明治時代、戦後という時代に応じて、都度京都らしさが探求、創発されてきた歴史が豊富な具体例をもとに説明された。また、文化遺産と観光の関係については、マーケティングに偏った観光政策に留意し、文化遺産を守るために観光を正しく使うことを理解する必要性について言及があった。例えば、伝統産業などは観光の力を活用して革新していくことで保存・再生することが必要であり、日本はそのノウハウが高いので、京都でこれをきちんとやっておけば世界にも貢献できるという期待が示された。ディスカッションパートでは、京都の成り立ちを伝えるインタープリテーションの必要性、京都ブランディングの手法(認証制度等)、インバウンドの情報収集方法、文化遺産を守る体制(カストーディアン)、誘客における地域連携状況などをテーマに活発な議論が行われた(本研究会の詳細については別途オーセンティシティに関する連続研究会の報告書として公開予定)。
京都らしさ(オーセンティシティ)は、江戸時代以降、各時代に応じて「発明」されてきた歴史がある。つまり、そこに存在するモノは同じでも時代によって解釈(インタープリテーション)が変わってきたということだが、現代から未来に向けた新たな時代の「京都らしさ」としてのオーセンティシティは、何か。筆者は、まさに「レジリエンスでホロニックな京都」を未来志向で解釈する事ではないかと考えている。
※DMO:Destination Management Organization(観光地域づくり法人(観光庁訳))
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