京都人の考える京都らしさとは何か


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京都人の考える京都らしさとは何か

"Authentic Kyoto" from the Perspective of Locals of Kyoto

宮﨑 彩 Aya MIYAZAKI

京都報告概説10_講演③神戸氏による講演の様子
先斗町の地域景観づくり協議会のメンバー神戸氏による講演の様子

今回のEP(若手専門家)委員会の研修会「京都らしさとは何か」では、誰もが想像する「『京都らしさ』=オーセンティックな京都なのか?」という問いを持ちながら、地元の人たちの支える京都の歴史的な景観、文化、生活空間を練り歩き、地方自治体や地元コミュニティーリーダーの方たちと対話を重ねた。京都らしさは定義することが難しいものの、それぞれになんとなくイメージを持っているものである。京都を巡ると、往々にして対外的に求められる「京都らしさ」の溢れかえる観光客の集中するエリア(祇園、先斗町、四条界隈)と、京都に暮らす人々の考える、古くからの京都らしい文化を残すエリア(今宮神社、西陣界隈)という対比が存在するのが見えてくる。

前者のエリアには、観光客のニーズに応えるような仕掛けが存在し、世界各地で見られる観光地における文化遺産の「ディズニーランド化」を目の当たりにすることとなる。例えば、古都を着物で散策・SNS映えするような写真を撮影するサービスや、商店街に流れる和風な音楽が京都の中心的なエリアには強烈なノイズとして存在する。これらのエリアでビジネスをする人々は、そのような状況を逆手に取りながら、観光客のニーズを満たすように景観を整え、商品・サービスを準備・提供しており、さらなる観光客の一極集中を起こす要因となる。一部エリアでの京都らしさの資源化と、急速に進むインバウンド需要への対応、周辺地域を巻き込む交通インフラ機能の停滞などの課題は、京都市全体での対応を要することとなる。実際に観光客の流れを改善するような施策は取られ始めているものの、日常生活に支障をきたすような需要と供給のインバランスを改善するのには時間がかかるだろう。

その反面、後者のエリアには少子高齢化や産業の衰退によって人口減少していく地方都市の実態があった。ここでは、観光地ではない今の日常的な京都が残っており、日々の生活に織り込まれている文化や伝統を守る地元コミュニティーの存在を強く感じることができる。例えば、私たちの訪れた千本ゑんま堂・引接寺や今宮神社では、近隣のコミュニティーが誇りをもって自分達の生活の一部として存在する寺社仏閣を守っている。多くの場合、彼らはボランティアとして、これらの歴史的な建造物を掃除、案内し、季節ごとに行われる古くからの文化・宗教的的な行事の運営を手伝っている。京都市内には2,045の神社仏閣(令和4年度京都府宗教法人数調)があるが、多くは世界遺産や「京都らしい」場所としての認知度が低いため、観光客がほとんど訪れない。したがって、京都の人が考える昔からの京都らしさが残っている。しかしながら、京都を支えていた織物産業などの衰退や、建造物・景観を守るための規制により現代的な住宅を建設できないエリアもあり、働き手となる若い世代が京都市を離れ、地元コミュニティーの縮小化と高齢化も顕著である。地域に根差した歴史・文化的な空間としての京都らしい寺社仏閣や近隣の古い町並みを維持するための努力が地元の一部の人たちの肩に大きく圧し掛かっている反面、そのパイが縮小しているのもまた現状である。

このように大きく分けて2つのエリアから京都を見たが、京都で生活する人々には「京都らしさ」について共通する、ある思いがある。それは価値を分かってもらえる人に京都を知ってもらい、共にその喜びを分かち合いたいというものである。印象的だったのは先斗町の地域景観づくり協議会のメンバーの神戸氏の言葉だった。瓢亭の高橋栄一氏の言葉を引用しながら、「歴史と伝統は異なる。伝統は守っていくだけでは後退するので、革新しなければならない。ただしなんでもかんでもやったらいいというのではなく、自分の中にどこまでという戒めの垣根が必要」であるとおっしゃっていた。歴史的建造物の多く残る先斗町の景観を守るための規制と空間づくりに必要な生きた感性をいかに両立させながら、作っていくのか。歴史を知り、「京都らしさ」を咀嚼しながら、新しさを生み出し続ける人々の努力が、京都を京都たらしめていると改めて感じた。