【写真ルポ】能登半島地震の今を訪ねて
【写真ルポ】能登半島地震の今を訪ねて
【Photo Report】 Visiting the Noto Peninsula Today - After the Earthquake
広報委員会(萩原 安寿) Journals(Anju HAGIWARA)
能登半島地震から5ヶ月。被災地の復興、そして文化遺産の復旧と復興はどのように進んでいるのか。2024年6月初旬の2日間にわたり、被災文化財支援特別委員会に同行して、広報委員会の有志のメンバーも能登半島を訪れた。
輪島市黒島地区伝統的建造物群保存地区
黒島地区は、江戸後期から明治にかけて北前船の船主および船員の居住地として栄えた集落であり、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。黒釉薬瓦に格子、下見板張りといった統一感のある町並みを形成するが、今回の地震で瓦の崩落、土壁や下見板張りの脱落の他、倒壊した建物が点在する。同地区には、重要文化財の公開施設として、旧角海家住宅(輪島市天領黒島角海家)があり、主屋等の倒壊の被害がでている。海岸の防潮堤や海沿いの岩礁は、約4メートル隆起しており、 揺れの大きさを物語る。
曹洞宗大本山總持寺
多くのメディアで取り上げられていた被災文化財の一つであるが、倒壊している山門から続く回廊は倒壊し、そのままブルーシートがかけられた状態であった。現在クラウドファンディングを行い、再建に向けた資金活動を実施している。
阿岸本誓寺
本堂は総茅葺が珍しい能登最古にして最大級の木造建造物であり、県指定文化財である。中央三間以外の柱間及び一部の小壁にはベニヤが嵌められ、応急的な処置がなされ、本堂へは立ち入りが制限されていた。
七尾市一本杉通
駅前を流れる御祓川の仙対橋から約450mほどの真っすぐな一本杉通は、明治から昭和に建てられた町家や商店建築が連なる。いくつかは、国登録有形文化財に登録されているが、この通りも大きな被害を受けている。
上時国家住宅
こちらも多くのメディアで取り上げられている被災文化財であるが、その状況は凄まじいものであった。主屋だけでなく、蔵などの附属建物等の被害も大きい。下時国家にも向かったが、こちらは立ち入る事ができなかったため、状況を把握することは叶わなかった。
輪島朝市
輪島朝市は、国の重要無形文化財に指定されている輪島塗の販売の拠点の一つであった。報道では凄惨な被害を見ていたが、現地に訪れると言葉を失った。公費解体が進んでいない実態や焼失地域への立入り制限もなく、放置され、危険な状態であったことも衝撃的である。(訪問後に公費解体が始まったとの報道があった。)
能登訪問を通して
文化財保護の視点に立てば、歴史的建造物の公費解体などによる除却や歴史資料等の廃棄が危ぶまれているが、実態としては、多くの公費解体作業、整備が進んでいないことがよくわかった。今回の訪問によって、多くのメディアでも取り沙汰されている生活基盤の復旧の遅れについて目の当たりにし、日常生活の再建は何よりも優先されるべきと痛感した。そして、その全体的な復興の遅れは、多くの指定未指定の文化財の滅失に繋がりかねないと危機感を抱かせた。
しかし、今回の訪問では、一つの復興の兆しとも出会うことができた。
冒頭の記載した黒島地区では、「かぞく會館」という貸別荘のフロントラウンジかつ、宿泊者以外もコーヒーや紅茶が楽しめ、町の人たちがそこに集う建物がある。この建物では、輪島市教育委員会が主催となり、4月末頃に地区の保存に向けた地元の説明会も行われた。
中を除くとコーヒーを飲みながら、歓談している住民たちがいた。店主は、「地震から回復しようとする能登の自然を日々の生活で感じたことが、今私にできることをやろう、コーヒーを出そうと思わせた」と語った。自然と寄り添いながら生きようとする姿勢に復興の兆しと、このような人々に寄り添わなければならないという使命感を覚えた。
最後に、能登半島地震で多数の尊い命が喪われたことに深く哀悼の意を表し、この一連の地震等で被災されたすべての方々に心よりお見舞いを申し上げるとともに、被災地域の一日も早い復興を心より祈る。日本イコモス広報委員会としてもなんらかの形で尽力していきたい。