シリーズ「会員往来」(第6回)


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シリーズ「会員往来」(第6回)

Correspondence

青山 道乃 Michino AOYAMA

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シリーズ「会員往来」の第6回を担当いたします、青山(髙瀨)道乃と申します。2023年度に入会し、現在はEPの幹事とつとめ、また広報委員会の活動にも参加させていただいております。

私は近現代建築資料のアーカイブを専門とし、研究や保存活動の実務に携わっております。修士課程までは建築史を専攻し、近世・近代の建築家や建築史家の活動の歴史を学んでいました。その後、昨年度までは文化庁の研究補佐員として近現代建築家の資料の保存業務に取り組んでまいりました。今年度からは設計事務所内での資料の保存活用に取り組みつつ、早稲田大学博士後期課程に在籍し近現代建築資料の保存論をテーマに研究しています。

修士論文では「長野宇平治の古典主義の特質」と題し、日本がその当時に受容した西洋建築文化を長野はどのようにとらえ、構築したかについて調査をしました。長野は海外視察や『建築士及其職責』としての海外文献の訳出を通して建築士会の創設に尽力するなど、「建築士」という職業の成立だけでなく日本で「建築文化」が成立するための土壌づくりを行いました。

アーキビストやキュレータの名称は国内でも聞かれるようになりましたが、職能はまだ理解されておらず、特に建築学にかかわるものは活動の場も限られているように感じます。一方で文化財保護の制度化以降国内では建築学に関わる文化の保存継承の専門性をもつ方々がすでにいらっしゃいます。私はアーキビストやキュレータが生まれた文化での職能を学びつつ、日本の文化財保護の専門家たちと議論し立場を相対化することで、これらの職能を確立できるのではないかと考えています。

2013年に文化庁国立近現代建築資料館が設立され、2017年には同資料館が「歴史資料等保有施設」に指定されるなど、近現代建築資料は保存の対象として捉えられ始めました。近現代建築資料館では現在収蔵数が20万点を超え、資料群は30点に対し [注1]、年間のデジタル化件数は令和4年度の最新実績でも7,000点程度 [注2]、データベースにて編成を確認できるのは坂倉準三建築設計資料と大髙正人建築設計資料のみとなっています。吉阪隆正+U研究室建築設計資料と菊竹清訓建築設計資料については、寄贈済みの資料を資料のファイル単位(この場合は図面筒や資料ファイル等)の羅列としての検索、その他については基本的に資料群単位の情報のみの状況です。

また、建築が多くの人と時間を内包する芸術であるがゆえに、権利の所在はより複雑なものとなっています。たとえば、1点の建築写真に対し撮影者のみならず、建築の出資者・設計者・使用者が様々な権利を主張できる可能性があります。

これらを公の立場として一括収容し運用するためには、少なくとも現在は資料の物理的・情報的な管理の課題が大きいと考えます。しかし、資料整理のための資源・能力不足は、高機能な撮影機器や画像解析等により今後改善され、権利に関しても資料整理により状況の分類ができ、実際に公開できる資料が増えると考えられます。

さらに、現存する建造物の資料であったり、現在活躍する建築家が関わった資料であるものも多く含まれており、これらの評価に関わる生きた資料です。これらの公開活用が現在の建築文化にも強く影響を与える可能性があるのではないでしょうか。

現在、私は個人設計事務所の運営に関わりつつ、主体的に資料をまもる方法を検討しています。文化庁国立近現代建築資料館では「みんなのもの」としての建築資料の保存に携わりましたが、「わたしのもの」として資料をまもることから始め、みんなのものにもなりえないか、ということに挑戦したいと思います。主体性をもって保存することはより資料自体の力を信じることであり、影響力や可能性も広がりを持つのではないでしょうか。建造物の保存にも「つかいながらまもる」方法が増えている中で、建築資料もそのようにより多くの人が関われる存在になればよいなと思います。


  • [注1] 小林克弘「はじめに」『図録 令和5年度展覧会「文化庁国立近現代建築資料館[NAMA]10周年記念アーカイブズ特別展 日本の近現代建築家たち」』文化庁国立近現代建築資料館、2023年
  • [注2] 「令和4年度国立近現代建築資料館活動報告」『国立近現代建築資料館紀要 第3号』文化庁国立近現代建築資料館、2023年